第200話 悪い顔
扉を勢いよく開け、そのまま走って下へと駆け下りていく。
そんな俺の目に飛び込んできたのは、血まみれながらも心の底から楽しそうに笑っているエイルの姿。
それから倒れている二人と、凶悪な笑顔のエイルから必死に逃げ惑う一人の女。
入口を塞ぐ二人の男もいるが、何故か戦闘には加わっておらず異様な光景を俺と同じように凝視しているだけ。
立ち位置的に冒険者ギルドの職員かとも思ったが、服装や装備を見て違うとすぐに分かった。
なら、なんで助太刀なりサポートなりを行わないのか疑問でしかないのだが……とりあえず何でもいい。
追いかけまわしている女はエイルが何とかするだろうから、俺は扉の前で棒立ちだったこの二人を仕留めることを最優先。
エイルは一見楽しそうに見えるが、あの血液の量から見て限界は近いはずだからな。
さっさと手前の二人を片付けて、エイルには安静にして貰わないといけない。
体勢を低く構えながら短剣を引き抜くと、棒立ちだった二人はようやく武器を構えた。
直前の行動から使えない奴らなのかとも思ったが、武器を構えたところを見る限り二人とも戦えることが分かる。
やはりこの組織の連中は、全員が全員戦闘が得意な人ばかりで構成されているんだな。
改めてそう感じながらも、目の前の二人をどう殺すか頭の中で何十通りとイメージする。
そしてイメージが固まったところで……先ほど同様に力強く踏み込み、俺は右側にいる男から攻撃を開始した。
手に持っている武器は血濡れたメイス。
腕の太さも尋常ではないことから、撲殺を得意とするパワータイプの人間。
一発でも攻撃をもらったら危険だが……力にかまけて技術を疎かにするタイプは俺が最も得意とするタイプ。
高速で懐まで潜りこみ、短剣を振ると見せかけて急停止。
振り下ろされたメイスが地面に直撃したのを確認してから、上体の振りでフェイントをかけてバランスを崩させて反対をつき、まずは右の太腿を深くまで抉り取る。
足に力がかけられなくなったことで右側に大きく傾いたのを見逃さず、今度は左側に回り込みながら短剣を持ち替えて首元を斬り裂いた。
激しい血飛沫が上がり、地下室の入口を真っ赤に染めながら息絶えた。
一息つきたいところだが、左側の男が迫ってきているのを感じ取っている。
武器は俺と同じ短剣で、動き出しが遅かったことからも冷静なタイプな間違いない。
こいつが俺と同じタイミングで動いていたら、首を掻き斬る前に防がれていただろう。
似たようなタイプは戦闘が長引くから好きではないのだが、考えてしまうが故の一瞬の遅れのせいで仲間が死んだことにより、今は冷静さが欠如しているはず。
俺はわざと背後を見せることで攻撃を誘い、男が踏み込む音を聞いてから即座に反転。
斬りかかってきた一瞬の隙を狙い、俺は心臓に短剣を突き立てた。
針の穴を通すような技術が要求されるが完璧に遂行。
心臓を突かれた男は斬りかかってきた勢いのまま地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
予定通り、二人の男を文字通り秒殺できた。
俺が今殺した二人と奥で倒れている二人。
更に上に二人の死体もあるし、これで例の組織は壊滅できただろうか。
その点も含めて、エイルが追いかけている女に聞いた方が良さそうだ。
「おいおい! いつまで逃げてやがんだよ!! さっさと俺とやり合いやがれ!」
舌を出しながら、暗殺者組織の誰よりも悪い顔で追いかけ回している。
発言も悪役そのものだしこの光景を第三者がみたら、確実に暗殺者である女の方を助けるだろうな。
「エイル止まれ。もうタイムアップだ」
「……んあ? もうジェイド来てたのか! でも今が一番良いところだから邪魔すんな!! こいつとは本気でやり合わなきゃ気がすまねぇ!」
「駄目だ。約束と違う」
そう呼び止めたのだが、一切止まる気配のないエイル。
仕方がないが無理やりにでも止めるしかないな。
そう判断した俺はエイルの動きを先回りし、腹部の傷口を軽くどついた。
アドレナリンが出ていて痛みを感じていなかったようだが、流石に傷口に直接攻撃を受けたら痛みが出たようでうずくまった。
「――ちッ! いってぇな! ……おい、ジェイドでもぶっ殺すぞ?」
「やってみろ。万全の状態でも俺に負けたのに、傷だらけの状態で勝てる訳がない」
「ぜってぇに殺す!!」
今の一撃で標的が女から俺に変わったらしく、血迷ったエイルが俺に攻撃を開始し始めた。
ただやはり動きは鈍く、俺は攻撃を躱しながら傷口にピンポイントでダメージを与えていく。
俺は女への警戒も忘れず行いつつ、エイルの攻撃合わせて放った右のハイキックが腹部に突き刺さったところで、ようやくエイルが動きを止めた。
心配して最速で駆けつけたのに、言葉通り傷口を抉る結果になったがこれで落ち着いただろう。
死ぬような傷ではないため倒れたエイルは放っておき、ようやく女から話が聞けそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます