第221話 アクセサリー


 それにしても、どれも良すぎて何を選んだらいいのかが分からない。

 どうせなら効果で選びたいところだが、アクセサリーの効果についてはスタナも知らないだろうしな。


「悩んでいるようですけど決まらないんですか?」

「どれもデザインが良いからな。全てが良いとなると何を買ったらいいのか分からなくなる」

「確かにそれもそうですね。決まらないようでしたら、目を瞑って選ぶとかはどうでしょうか? ハズレはない訳ですし!」


 それでもよさそうだが、折角スタナからプレゼントしてもらえるのにそんな選び方でいいのかとも思ってしまう。

 ここはスタナに決めてもらいたいな。


「よかったらスタナが決めてくれないか? プレゼントしてもらう訳だし、スタナが選んだものがいい」

「えっ! 私が選ぶんですか? ……別に大丈夫ですけど、嫌って言わないでくださいね」

「もちろん言わない。そもそもが全て良い訳だしな」


 そんな俺の言葉に頷いたスタナは、顎に手を当てながら一生懸命考え始めた。

 チラチラと感じていた周囲の視線も次第に収まり始めたぐらいで、どれにするか決まったスタナは手をポンと叩いた。


「決めました! これはどうでしょうか?」


 スタナが選んでくれたのは、シンプルながらもかっこいいシルバーリング。

 俺に似合うかは分からないが、これに決めさせてもらおう。


「選んでくれてありがとう。これに決めさせてもらう」

「良かったです! それじゃビアルさんを呼びますね」


 元彫金師のビアルが再びやってきて、軽く交渉した後にシルバーリングを購入した。

 金額は金貨一枚と驚くほど安かったが、ビアル曰く趣味で作っているからこその値段らしい。


「毎度あり! どうする? 今日こそは飯も食っていくか?」

「いえ! ご飯はまた別の日にさせて頂きます! 良いアクセサリー、ありがとうございました」

「いっつも食べていかねぇからな! まぁいいや、また来てくれ!」


 俺もビアルに軽く頭を下げてから、一風変わった定食屋を後にした。

 本当に想像の範囲外のお店だったし、スタナが変わっているというお店なだけあっつた。

 正直なところ、料理もおいしそうだったし俺は食べてみたかったのだが、スタナが断ったのは何かしら理由があるのだろう。


「良いお店を紹介してもらった。アクセサリーまで買ってもらったし、本当にありがとな」

「いえいえ! お土産を買ってきてもらう約束をしましたし、私も選べて楽しかったのでお礼なんていらないです!」

「それと一つ気になったんだが、ここの店でご飯を食べなかったのは理由があるのか? 俺は少し気になっていたんだが」

「言いづらいんですけど……料理の方が単純にそこまで美味しくないってだけですね! 別に食べれないってことはないんですけど、ジェイドさんの最終日のヨークウィッチでの食事と考えるとオススメはできなかったです!」


 満面の笑みを浮かべながら辛辣なことを言ってのけたスタナ。

 若干苦笑いしてしまったが、確かに美味しい料理の方が俺も食べたい。


「単純な理由だったのか。まぁ俺も美味しい料理の方が嬉しい」

「ですよね! 時間的に次が最後になりますが、とびきりに美味しい料理屋さんがありますのでそこに行きましょう!」

「スタナがとびきり美味しい料理と言うなら期待大だ。お腹もかなり減っているし、もう楽しみでしょうがない」

「期待してもらって大丈夫です! 張り切って向かいましょうか!」


 今日はあちらこちらと移動しており、スタナのペースに合わせてゆっくり歩いているのもあって新鮮な感じがする。

 配達では何度も通った道だが、こうしてゆっくりと歩くことで目につかない場所にも目が行くからな。


 そんなヨークウィッチの街並みを目に焼き付けながら、スタナと雑談を交わして歩くこと約二十分。

 辿り着いたのは街の北側の富豪エリア。


 あまり立ち寄らない場所だし、最後に訪れたのはヴェラの家に行った時。

 そのためどんな店があるのかも詳しくなく、イメージとしては住宅街って感じなんだが……この地区に美味しい料理屋があるのだろうか?


「街の北側は治安の悪い西側よりも来たことがないな。こっちのエリアに美味しい店があるのか?」

「私もあまり立ち入ることがない場所なんですが、良いお店があるんですよ! 値段が少し張るんですけど、『パステルサミラ』や『ランファンパレス』よりも美味しいですよ!」


 『パステルサミラ』よりも美味しいというのは、スタナの言葉でもにわかに信じがたい話。

 俺の中での最高の料理であり、あれ以上に美味しいというのは想像がつかないからな。


「ここです! お洒落なお店ですよね?」

「確かに……スタナに紹介してもらった店の中ではダントツでお洒落な店だな」


 高級な住宅が立ち並ぶ中でも見劣りしない、外観からセンスを感じる店。

 大きさ的にはそこまでではないが、俺一人では絶対に入れない店だな。


「味も抜群に美味しいんです! それにあまり混んでいないのもポイントが高いです! 入りましょうか!」


 そう嬉しそうに語ったスタナの後に続き、本日最後の店となる料理屋さんに入った。


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