第138話 魔石の扱い


 翌日の閉店後、俺は一人で魔石屋『ラウビア』へやってきていた。

 掃除の魔道具を実際に作れるのかの相談のため、店主のゲンマに会いに来たのだ。


 魔石を何度か仕入れている内に顔見知りになっているし、恐らく相談にも乗ってくれるはず。

 閉店間際だからか客はおらず、一人で魔石を磨いていたゲンマに声を掛ける。


「いらっしゃ……ってジェイド様じゃないですか。今日も魔石を買いに来てくれたんですか?」

「いや、今日は相談があって来たんだ。少しだけ時間を貰っても大丈夫か?」

「ええ、もちろん大丈夫ですよ。ジェイド様は私の店のお得意様ですからね」


 魔石を磨く手を止め、笑顔で対応してくれたゲンマ。

 好意に甘え、早速質問させてもらうとしよう。


「実は魔石についての質問がある。風属性の魔石は基本的に風を送り出すだけだよな?」

「そうですね。低級の魔石でしたら、【ウインドボール】一回分くらいの風量を出せるといったところでしょうか」

「その風を出すというのが基本的な使い方とは別に、逆に風を吸い込むといった使い方はできるのか? 魔法なら……こんな感じでできると思うんだが」


 俺は実際に魔法を発動させ、近くにあった魔石を一つ風の力で吸い寄せた。

 ゲンマは無詠唱の魔法を始めて見たようで、目を輝かせながら拍手してくれた。


「おおっ、見事な魔法ですね。ジェイド様は魔法使いだったのですか?」

「いや、ただ魔法を少しだけ使えるってだけだ。それよりも……」

「申し訳ございません。先にジェイド様の質問を答えるべきでしたね。多分なのですが、可能だと思いますよ」


 ゲンマは特に考える様子も見せずに可能だと言った。

 “多分”という言葉が少し引っかかるが、ヨークウィッチで一番魔石に詳しいであろうゲンマが言うのであれば、これは期待してもいいのかもしれない。


「それは本当か? できればやり方を教えてもらえると助かる」

「そんな使い方をされる方は稀有ですので、私も実際にはやったことがないのですが……。魔石と相性の悪い鉱石を触れさせることで、暴発させることができるのです」

「魔石と相性の悪い鉱石? 暴発っていうのも大丈夫なのか?」

「魔石は本当に特殊なものですからね。近づかせてはいけないものというのがあるんです。その内の一つが『エアジスト』という鉱石ですね」


 聞いたことのない名前の鉱石。

 魔石は仕事で何度も使っていたが、魔石と相性の悪いものがあるというのも初めて知ったし、やはりゲンマの知識は俺なんかよりも断然深い。


「エアジスト……。聞いたこともない鉱石だな。そのエアジストはどこで手に入れることができるんだ?」

「私の店に置いてありますよ。基本的に売れませんので、店の奥に眠っておりますが」

「そのエアジストを売ってもらえることはできるか? ……あと金額の方も教えてもらえると助かる」

「脆い鉱石でして、物の価値としてはほとんどありませんのでお安くお売り致します。一つ当たり銅貨三枚でいかがでしょうか?」


 あまりにも予想外すぎた値段。

 金貨数枚は覚悟していたのだが、この額で仮に吸い込むことができるようになるのであれば……掃除用の魔道具は一気に製造に近づく。


「そんな低価格でいいのか? その値段なら、俺としてはあるだけ売ってもらいたいのだが」

「もちろん構いませんよ。私が個人的に興味があって置いてあったものですので。それでは取ってきますので少し待っていてください」


 エアジストを取りに店の奥へと消えていったゲンマを見送ってから数分後、小さな箱を持ったゲンマが戻ってきた。

 あの箱全てにエアジストが入っているのであれば、かなりの数が期待できそう。


「お待たせ致しました。こちらがエアジストとなります。合計で百個ほどございますが、全てお買取りで大丈夫でしょうか?」

「ああ、もちろん全て買い取らせてもらう」

「ですが、もしかしたらジェイド様が思っているような効果を得られない可能性がありますよ?」

「だとしても大丈夫だ。暴発するのは確かなんだよな?」

「ええ。エアジストと魔石を触れさせることで確実に暴発は致します」

「それなら、全て買い取らせてもらう。わざわざありがとう」

「こちらこそ、お買い上げ頂きありがとうございます。数えさせて頂きますので少々お待ちください」


 百個だとしても金貨三枚。

 一個で金貨三枚を覚悟していたぐらいだし、金貨三枚でこれだけの数が手に入れられたのは非常に大きい。

 

「それでは――合計百十二個でしたので、金貨三枚頂いてもよろしいでしょうか?」

「金貨三枚で大丈夫なのか? 銀貨三枚分ほど安くなっていると思うが」

「これだけまとめ買いして頂いたので構いませんよ。エアジストも仕入れておきますので、また必要になった際はお声掛けください」

「本当に助かった。追加で必要になった時は遠慮なく声を掛けさせてもらう」


 ゲンマに礼を伝えてから、俺は『ラウビア』を後にした。

 やはり専門の人に尋ねたのは正解だったな。これは一気に目途が立ったような気がする。


 すぐにヴェラと合流し、早く実験に取り掛かりたいところだが……ヴェラは今職人たちと一緒に作業を行っている。

 俺一人で可能な限り確かめて、後日ヴェラに報告する形にしようか。



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