第256話 クロの情報
ホーウィーは椅子に座り直し、再び違法ドラッグに火をつけて吸い始めた。
気持ちを落ち着かせるためだろうが、臭いが嫌いなため止めてほしいところ。
「その吸っているのは何なんだ? 臭いから吸わないでほしいんだが」
「ただの煙草だよ。吸わないと気持ちが落ち着かなくてね。悪いけど吸い終わるまで我慢してくれ」
「煙草の匂いではないけどな。答える気がないなら構わないが、早く吸い終えてくれ」
そこから俺の言葉には一切返事をせず、虚空を見つめながら違法ドラッグを吸い終えたホーウィー。
目の焦点があっておらず、南の森で見かけた男と似たような仕草を見せている。
「……待たせて悪かったね。それじゃ一つだけ質問に答えよう」
急に本題に入ってきたが、見破られた辺りから機嫌が悪くなったのは口調が若干変わったことからも分かっている。
いつ心変わりをしてもおかしくないため、ホーウィーの気が変わらない内にさっさと質問をして立ち去るとしよう。
「俺からの質問はクロという人間を知っているかどうかだ。嘘はなしで答えてくれ」
「クロ。予想もしていなかった質問だね。……もちろん知っているよ」
質問内容については迷ったが、クロについてを尋ねるのがベストと判断した。
ここでクロの情報を得ることができれば、わざわざヴィクトルと接触する必要がなくなる。
廃れた家具屋から入れた地下通路が賭場に繋がっていたことから、ヴィクトルと繋がりがあることは明白。
立場を考えるならホーウィー以上の情報は持っていないだろうし、ここで情報を入手するのが得策なはず。
「知っているのなら良かった。クロについて知っている情報を全て教えてほしい」
「それを一つの質問としてカウントするのはどうかと思うね。もっと具体的な質問をしてくれなくては答えようがない」
「俺の質問は変わらない。クロについて知っている情報を全て答えろ――だ」
「……分かったよ。本当は行商人なんかじゃないだろ? クロについても調べているし、君のことが気になってきた」
「いいから早く質問に答えてくれ」
中々答えようとしないホーウィーを急かし、質問に答えるよう促す。
知っているであろうと思っていたが、この感じなら想像している以上の情報を持っている可能性が出てきたな。
「クロは暗殺を生業にしていた組織のリーダーだ。組織の名前すら持たなかった裏の中でもアンタッチャブルとされている組織。まぁ数年前から徐々に規模を縮小させていって、今ではその組織自体がなくなってしまったんだがな」
ここまでは俺も組織に所属していたため知っている情報。
俺が知りたいのここからクロがどう動いたか。
「それでその組織がなくなった後はどうなったんだ?」
「クロはその組織とは別の組織を、規模を縮小させ始めたタイミングで作っていたんだよ。その組織は『モノトーン』という名前の組織で、名前すらなかった組織とは真逆の方針の組織。幹部から末端の構成員までしっかりと名乗らせて、とにかく目立つことが目的のような組織なんだ」
「目立つのが目的の組織? やっていることは変わらず殺しなのか?」
「いや、殺し以外の全ての悪事だね。その辺りも真逆の方針って感じだよ」
『モノトーン』の組織名は知っていたが、何をしているかは初めて知った。
内容を聞いても疑問が深まるばかりで、クロが一体何を企んでいるのか現時点では見当もつかない。
「なるほど。『モノトーン』を使って目立つのが目的と」
「表向きにはそうとしか思えないね。ただ……未だに殺しも行っているという噂だけは聞く。帝都から近い街にいて耳も広いと自負する私にも噂程度しか耳に届いていないから、こっちの話は嘘の話である可能性の方が高いがね」
未だに殺しをやっているという噂か。
俺の中のクロのイメージは殺しでしかないため、この噂は本当の可能性が高いと俺は思う。
ただ『モノトーン』は殺しをやっていないとのことだったから、殺しを行っているのはクロ自身の可能性もあるが、俺は一度もクロが殺しに手を染めたところを見たことがない。
暗殺技術も高く、戦闘能力も図抜けた人間だが、リスクは絶対に冒さないのがクロ。
だからこそ現時点でその殺しを誰がやっているか、このことを調べることでクロの本当の目的に近づく気がする。
「なら話半分程度に聞いておく。それで『モノトーン』が拠点としている場所は知っているのか? クロの居場所も知りたい」
「ここまで質問攻めにされると、本当に一つの質問じゃないと感じてしまうね。引く気はないようだし、別に出し惜しみすることでもないから構わないけれども」
「なら早く教えてくれ」
「『モノトーン』が拠点としているのは帝都。有名だから帝都で聞き込みをすればすぐに分かる。クロについては知らないね。古くから暗躍している人間だけど、“クロ”という名前以外は知れ渡っていない。ただ、暗殺者組織も『モノトーン』も帝都に拠点を構えていたから、帝都に住んではいるんじゃないのかな? こればかりは憶測でしかないがね」
『モノトーン』が帝都に拠点を構えているのは意外だったが、あり得ない話ではない。
それと関わりがありそうな違法な賭場の元締めでも、クロ=ブレナン・ジトーということは知られていないのか。
兎にも角にも危険を承知で帝都に行ってみないと、これ以上の進展はないかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます