第298話 想像以上
様子見はなしでフルスロットルでいく。
初めてこちらから攻撃に転じると見せかけ、【龍炎】の魔法を放った。
龍のような形をした炎がクロを襲い、暗い下水道に赤い灯りが灯る。
直撃してくれれば大やけど。一発で瀕死に持ち込める魔法なのだが――。
「魔法を放つのが丸わかりだな。良い攻撃だろうが読まれたら意味を成さない。【雷爆光】」
その言葉と同時に【龍炎】以上の光りが下水道を包むと同時に、俺の放った【龍炎】はあっという間にかき消されて消えた。
魔法も使えると思っていたが、威力、精度共に一級品。
先ほどの話を聞く限りでは、俺のように実戦を行ってきた訳ではないはず。
どうやってこれほどまでの力を磨いてきたのかシンプルに気になるが……多分、ただの天才ってオチでしかないだろうな。
「ただ……魔法はかなり厄介だな。一気に決めさせてもらうとしよう。【超反応】【疾風流水】【能力向上】【肉体強化】。スキルの使えないジュウ相手にスキルを使うのはどうかと思ったんだが許してくれ」
クロはそう呟くと同時に、超速で斬りかかってきた。
動きは先ほどの比ではなく、なんとか【直雷】と【雷槍】の種類の魔法を使い分け、攻撃を場所を限定させることで対応しているが、動きがあまりにも速い。
狭い下水道の壁を蹴りながら翻弄してきており、俺の魔法も楽々と躱されている。
俺の全力を持ってしても一歩届かない相手。
そんな相手と対峙できていることに嬉しさを感じつつも、この状況を打開する術を考えなくてはいけない。
思いついている策が一つあり、ダンに加工してもらったフィンブルドラゴンの角のアクセサリーを使った一撃に賭ける策。
フィンブルドラゴンの角は一風変わった特性を持っており、角に魔力を貯め込むことができる。
そしてこのアクセサリーは、貯め込んだ魔力をぶっ放して攻撃するという凶悪なもの。
道具はなるべく使わずに戦いたかったが、こうなってしまった以上は仕方がない。
俺はクロの超速の攻撃を躱しながら、フィンブルドラゴンの角に魔力を貯め込んで行く。
「逃げているだけじゃ勝てないぞ? 私の剣はジュウを捉え始めている」
先ほどまで無表情だったクロも楽しげに笑っており、両者笑顔でこの戦闘に臨んでいる。
散々笑顔を見せるなと教えられてきたが、この様子を見る限りじゃクロも大して変わらない。
根の部分は戦闘狂であり、自分と同等以上に戦える者を待っていたのだろう。
「笑顔になるなと散々言われてきたが、お前も口角が上がっているぞ」
「本気を出せる相手がいなかったからな。殺せることも相俟って最高の気分だよ。最後まで俺を楽しませてくれてありがとう」
更にもう一段速度を上げ、俺を仕留めに動いてきた。
溜めた魔力をぶっ放すタイミングはここしかないのだが、まだ威力としては弱い。
【爆氷風】の魔法を使い、クロの動きを鈍らせつつ攻撃へと移ったが、やはり短剣では間合いに入ることすら難しい。
ステップを踏んで時間を稼ぐことだけに集中するが……。
「何を狙っている? さては切り札でも用意してきたか?」
俺の微妙な動きを察知し、何かを仕掛けようとしてくることを見抜いたクロ。
魔力を溜めるという行為ですら、動きを読んでくるのか。
脂汗が滲むのを感じながらも、俺はクロの動きだけに集中して攻撃をギリギリで避けていく。
もう少しで魔力が溜まり、溜まってしまえばクロといえど防ぐことは難しい。
「その切り札とやらを受けてやってもいいが……私は危険を避けるタイプなんだ。【瞬撃】」
気が付いた瞬間にはクロの拳が目の前にあり、避けるのが不可能と瞬時察知する。
ただ、拳であれば致命傷にはならない。
そして――この至近距離ならば、魔力が溜まりきっていないが回避不可で大ダメージが期待できる。
クロの拳が顔面にぶつかったと同人に、俺はフィンブルドラゴンの角を発射させる。
下水道内が眩く光輝いたと同時に、凄まじい衝撃波が俺の体をも襲った。
殴られた勢いと衝撃によって後ろに転がり、受け身も取れずに地面を転がっていく。
鼻が折れているのが分かるし、衝撃波の影響で体も色々なところが痛む。
ただ、クロは溜めた魔力の一撃を超至近距離で食らったはず。
痛む体を動かし、魔力を食らったであろうクロの確認を行う。
正面には衝撃波が放たれた跡がくっきりと残っており、その先は砂煙やら水飛沫やらが舞っていて見えない。
モロに食らったのであれば、その先で倒れている――はずだったのだが。
砂煙が晴れていくと同時に、立っている人影が見えてきた。
服はところどころ破れてはいるものの、倒れずに立っているクロの姿。
あの威力の魔力波を食らって立っている……。クロは俺が想像していた以上の化け物かもしれない。
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