第79話 魔人の情報
一段落つき、ようやく向かい合って腰を下ろした。
マイケルにはギルド長に伝えてほしくはなかったが、ギルド長室に飛び込んだのは俺。
自業自得な部分が大きいため、ここは大人しく受け入れるしかない。
「落ち着いてくれて良かったよ。ようやく本題に入ることができる」
「俺はずっと落ち着いていたけどな!」
「ギルド長は少し黙っててください」
大きな舌打ちをかましたが、マイケルは反応を示すことなく話を続けた。
「まずはゴブリン騒動だが、ゴブリンキングが殺されたことで一気に瓦解。森の泉付近で巣作っていたゴブリン達の処理は少々てこずったけど、被害はゼロで討伐し切ることができたよ。改めて本当にありがとう」
「別に構わない。大した労力じゃなかったからな」
「大したことないというのが凄いのだけどね。それで――大問題だった魔人についてだよ」
「刈り取った首と転がっていた死体を確認したが、あれは間違いなく魔人だったな! 長年冒険者としても活動していたが、死んだ魔人なんてのは初めてみたぜ!」
少し興奮気味のギルド長。
恋する乙女のようなキラキラとした目で、魔人の死体についてを語っているギャップが凄まじい。
「私も初めて見ましたね。……そこで、魔人についての情報を君には詳しく伺いたいのだ。どんな魔人だったのだ?」
やはりこの質問が飛んできたか。
聞かれたからには、死体が弄ばれていたことを伝えるしかない。
比較的あっさりと殺してしまったし、情報的にもそれぐらいしか落とせないしな。
「頭部を見たから分かると思うが、とにかく舌が長い魔人だった」
「んなこたぁ、死体を見りゃ分かるわ」
「前提でそう言っただろ。馬鹿なのか?」
「二人共、いい加減してほしいですね。特にギルド長。次に余計なことを言ったら問答無用で退室してもらいます」
「わーってるっての!」
「……続けさせてもらう。死体で見るよりも、確実に舌が特徴的だったのは間違いない。細くさせたり太くさせたり、伸ばしたり縮めたり、グルグルと巻き付けてもいた」
「なるほど。蛇のような感じかね?」
「感覚的には近い。もっと変幻自在に動いていたが」
あの変な舌のせいで、不意打ちを行うのも躊躇ったぐらいだからな。
近づくのすら忌避するぐらいのインパクトがあった。
「それで、舌での攻撃を回避しながら殺した――と?」
「いや、舌での攻撃はされなかった。させる前に殺したってのが正しいな」
「じゃあ何の能力も見ていないってのか! 使え……なんでもねぇ!」
「能力は見たぞ。死体の耳から舌を伸ばして、脳を啜っていた。魔人曰く、脳を啜ることで記憶を食べることができるらしい。本当かどうかは分からないが」
俺のその発言を聞き、冒険者たちの死体と魔人の死体の両方が頭に過り、脳を啜っている魔人を想像してしまったのか……マイケルは大きく身震いした。
「本当におぞましいね。紛れもなく“魔人”というエピソードだよ」
「“貴方は生きている状態で啜る”とも言われたな。口ぶりからも相当の数の人間の脳を啜ってきたというのは分かった」
「うう……きめっ! フォルムもキモかったが、やってることもキモすぎるだろ! 少し前まで興奮していたのが一気に冷めた!」
流石のギルド長も駄目だったようで、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「いやぁ、本当によく倒してくれたよ。話を聞いて改めて思ったね。どうやって殺したかについては教えてくれたり……しないかね?」
「心臓を一突き。死んでから首を刎ねた。死体を見たんだから分かるだろ」
「そうじゃないのだが……まぁ答えられないか。とにかく魔人については分かった。冒険者ギルドとして――いや、この街の一住民として、代わりにもう一度改めて礼を言わせてもらうよ。本当にありがとう」
改めて深々と頭を下げてきたマイケル。
人ではないとはいえ、何かを殺してここまで褒められるというのが特殊で変な気分になる。
勇者を殺した時ですらクロから感謝されたことはなかったし、恨まれることはあれど感謝された経験は暗殺者時代には一度もなかった。
当たり前といえば当たり前だし、俺なんかが感謝される人間ではないというのは一番よく理解している。
レスリーに感謝された時のように素直には受け取れず、少々複雑な心境。
「礼の言葉は別にいらない。その分キッチリと礼をしてくれればいい」
「礼って何を求めているんだ? 魔人を倒せるだけの強さがあんなら、別に強請らなくとも手に入るだろ!」
「そんなことはない。まずは……すぐに『パステルサミラ』に連れて行ってくれ。腹が減ってしょうがない」
俺の言葉に目をまん丸くさせたマイケル。
驚いているが、俺にとってはかなり重要なこと。
そもそも『パステルサミラ』で食事を奢ってくれるとのことだったから、話をすることを了承した訳だしな。
「すまんね、すっかり忘れていた。話も一段落したところだし、『パステルサミラ』に行こう。私も食べたいし、キッチリと奢らせてもらうよ」
「ああ。すぐに向かおう」
「……なんだ? 『パステルサミラ』って。俺も連れていけ!」
絶対に嫌なのだが、マイケルは懇願するような目で俺を見ている。
ギルド長と飯を食ったら確実に不味くなるが、マイケルに奢ってもらう限り否が応でもついてくるだろうから……諦めるしかないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます