第54話 尾行
四人はギルド通りから大通りへと出て、そのまま街の北へと向かって行った。
そっちの方向は富裕層エリアであり、俺自身もほとんど行ったことがない場所。
慣れていない場所はあまり近寄りたくはないが、富裕層エリアの建物は高さがあるためヘマをしなければ見つかることはほぼない。
尾行の続行を決めた俺は、見失わないギリギリの距離を保ちつつ、四人の人間の後を追っていった。
大通りから富裕層エリアへと入り、そこからも歩を止める気配が一切ない。
奥に進むにつれて、より金を持っている人間の家になっているのか、見るからに豪華絢爛な建物が立ち並んでいる。
そんな家の屋根を汚い恰好をした俺は土足で登っているのだが、まぁバレなければ咎められることはない。
家主にもバレないように気をつけながら尾行を続けていると、とある家の前で四人は足を止めた。
周りの絢爛な家にも負けていない建物で、庭付きの見るからに金持ちが住んでいそうな家。
軽く周囲を確認してから、その家に入ると思ったその瞬間――何かに気がついた様子を見せた後ろのフードを被った人間。
黒服の男に耳打ちをすると、スラッとした男を一人残して三人は違う方向へと一気に走り出した。
俺の尾行は絶対に気づかれていないため、何か別のトラブルがあったと考えるのが正しい。
残されたスラッとした男の尾行を続けるのか、それとも別の方向に走り出した三人の誰かを追うのか。
またしても選択に迫られた訳だが、安全を期すならフードの被った人間を追うのが正解だろう。
黒服二人とスラッとした男は言ってしまえば、ここで逃がしても俺に危険が及ぶことはない。
逆にフードの人間は見失ってしまうと、僅かながらではあるがリスクがある。
功を焦ってこの場に残った男を追いたい気持ちを抑え、俺は走り出したフードの人間の後を追うことに決めた。
フードの人間は何故か来た道を引き返しており、様々なものを壊しながら家と家との間を抜けて高速で移動し続けている。
向かっている先には……逃げている一人の男がいた。
どうやらこの男の存在に気が付いたことで、急に走り出したようだな。
逃げている男も大分速いがフードの人間に距離を詰められており、そしてとうとう逃げ道を塞ぐように反対側から回り込んでいた黒服の男が姿を表した。
細い裏道で逃げ場を塞がれ、正面には二人の黒服。背後からはフードの人間。
俺もようやく見えやすい良い位置に移動することができ、隠れてこっそりと様子を窺おうとしたのだが……。
三人の人間に追いかけられ、補足された人間に見覚えがあった。
髪の毛が数本しかなく太っている豊満な体。
あれは冒険者ギルドの副ギルド長——マイケルで間違いない。
一度見たら脳裏に焼き付けられる特徴的な容姿をしているため、すぐに思い出すことできた。
もしかしてだが、冒険者ギルドも『都影』の素性を探っていたのか?
それでヘマして見つかったというパターンが一番考えられる。
マイケルもフードの人間と同様に力を隠していた人間だし、これから行われるであろう戦闘は少しだけ楽しみだ。
マイケルが圧倒するなら出ていくことはせず、『都影』であろう奴らが圧倒しそうならば即座に止めに入る。
仮にマイケルが瞬殺された場合のみ、助けることはできないのだが……仮にも冒険者ギルドの副ギルド長なのだし、その時は俺を恨まず自分の実力のなさを恨んで欲しい。
そんなことを考えながらいつでも飛び出せる準備を整え、追い詰められたマイケルの動向を窺う。
緊張感が走る状況の中、まず声を出したのはフードの人間だった。
「先回りして見張ってたみたいだけど、あんた誰?」
男か女かの区別がついていなかったが、声を聞く限りは女の声。
ハニートラップ等も仕掛けられるし、女の暗殺者は決して少なくはないが……あれだけ動きの良い女の暗殺者は珍しいな。
「何のことだね。いきなり追いかけられた上に、意味の分からないことを言われても困るよ」
「しらばっくれても無駄だぞ。お前はこの街の冒険者ギルドの副ギルド長だろ。誰に依頼されてアタシらを見張ってたの? 大人しく話せば苦しまずに死ねるよ」
「やれやれ。私は本当に何も知らないんですがね。……どうしても解放してくれないというなら、少し手荒な真似をしなくてはいけません」
マイケルはそう言うと、腰に差していたレイピアを引き抜き、フードの女に向かって構えた。
やはり実力を隠していたようで、構えは見惚れるほど綺麗。
体型はだらしないにも関わらず、一分の隙もないもないお手本のような構え方だ。
「手荒な真似? アタシを舐めているみたいだな。――おい、三人で囲って一気に片付けるぞ。絶対に殺すなよ!」
黒服の男に指示を飛ばし、いよいよ戦闘が始まる。
互いにここで殺すつもりはないようだし、どちらが勝つにしても安心して見ていられそうだ。
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