第213話 二人の成長
いつもの平原に辿り着き、向かい合って木剣を構える。
トレバーとテイトはいつものように体勢を整えており、見た限りでは前回と変わったところはないように思える。
「それじゃ準備はいいか? 時間もないし一戦だけだ。二人共、俺を殺すつもりで全力でかかってきてくれ」
「はい! 殺すつもりでいきます!」
「絶対に一撃当てますので」
元気良く返事をしたトレバーとは裏腹に、テイトは静かにスイッチを入れた。
普段から俺をよく見ているからか、スイッチの入れ方も似ているような気がして少し嬉しくなる。
――っと、そんなことを考えている場合ではなく、俺も二人の熱意に応えるべく全力を出さないとな。
最後だからといって手加減することはなく、全力で攻撃を捌くつもりでいる。
まず動き出したのは、テイトの前に立っているトレバー。
駆け引きもフェイントも行う素振りは見せず、ただ真っすぐに斬りかかってきている。
これまでのトレバーを知っているからこそ、思わず気を抜いてしまいそうになるが……。
ディープロッソとの一戦を見ているため、絶対に気を抜かない。
もう出会ったばかりの頃の情けないトレバーではなく、自分が強くなるために努力を積み重ね――そしてちゃんと強くなった一人の戦士だ。
間合いに入るなり木剣を振り上げたが、やはりこの実直な動き自体がフェイク。
更に何らかのスキルを発動させたようで、目が離せなくなる強い引力のものがトレバーにある。
恐らく、タンク役が使う自身に攻撃を向けさせる類のもの。
動きにスピード感もなく、その上自ら注意を惹きつけるスキルまで発動させた。
左からの袈裟斬りから見ても、まるで右側に避けてくれと言っているような攻撃だな。
初っ端から工夫は見えたが、バレバレな誘導は意味を成さない。
『ブラッズカルト』との戦闘で誘導攻撃を味わっていたため、児戯に感じてしまいながらも俺は誘いには乗らず、振り下ろされる木剣を潜るように左側へと避けた。
狭い方に避けるとは思わなかったようで、トレバーは驚いたような表情をしていたのだが――そんなトレバーの後ろから何故かテイトが飛び出てきた。
セオリーで言うのであれば右側に待機しているはずなのだが、左側から飛び出てきたということは俺の動きが読まれていたということか?
わざとらしい攻撃で誘い、その誘いに俺が乗らないということを見破られていたのだとしたら一本上を行かれた。
「動きを読んでいたのか?」
「ジェイドさんならこっちに避けると思いました」
テイトは勝ち誇った表情でそう言ってきたが……。
動きを一回読んだ程度じゃ、俺に一撃を与えるに至らない。
構えや筋肉の動きから突きを放つ前に攻撃を予測。
懐に潜り込み、躱しづらい腹部や胸部を狙って攻撃してきたテイトの突きを、体を捻じ曲げるようにして無理やり回避していく。
攻撃を放ったと同時に俺が避けているため、テイト目線では未来でも見えているように思えているだろう。
そしてテイトの連撃が止まったところで、俺は一気にバックステップで距離を取って一度振り出しに戻しにかかったのだが……。
「スキありっ!」
背後からそんなトレバーの声が聞こえ、慌てて振り返ると木剣が真上に迫っていた。
トレバーが剣を振り下ろしているのに気づかないとかあるのか?
――いや、そんなことよりも受け止めなくては間に合わない。
手に持っていた木剣でガードし、なんとかトレバーの不意打ちを防いだが、腑に落ちないことばかり。
声を出してくれたから助かったが、無言で攻撃されていたら完全に頭に直撃していた。
すぐにテイトに視線を戻し、トレバーとテイトが視界に入るようにしながら俺は距離を取る。
「なんで声に出すの! せっかく完全に虚を突けてたのに!」
「隙があったら“隙ありっ”って言っちゃうでしょ! 声出さないと力が入らないし!」
「この模擬戦では力なんていらないの! 攻撃を当てればいいんだから」
「でもジェイドさんは殺す気で来いって! それに……初めて剣を使わせた訳だし、上出来だと思う!」
すぐに攻撃を仕掛けてくるかと思いきや、二人で何やら言い争いを始めた。
チャンスを不意にしたやら何やらで揉めている。
確かにテイトの言っていることが一理あるし、明確なトレバーのミスだと思うが……トレバーの言うように、二人との戦闘で初めて木剣を使わされた。
勝ち負けの基準で言えば勝てていないが、先ほどの攻撃は明確に俺が負けていたと言えるほどの攻撃だったのは間違いない。
「戦闘の際中に言い争いをするな。それとももう諦めるのか?」
俺のその声でハッとしたようで、二人して再び武器を構えた。
まだまだ続けるようだし、体力が尽きるまで付き合おう。
もう二度とトレバーから視線を外すつもりはないし、木剣も遠慮なく使わせてもらうつもり。
二人に勝ち目はないだろうが……どんな攻撃を仕掛けてくれるのか非常に楽しみだ。
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