第202話 お粗末
まずは左側から突っ込んできた黒装束の男のくないによる攻撃。
計五本ものくないを投げてきており、このくないを回避すると一気に囲まれる形になるため短剣で弾き落とす。
そんな弾き落とす行動を見計らってか、すかさず右側からスーツの女が太刀で斬りかかってきた。
これは全く戦闘と関係ないが……スーツに太刀というアンバランスさが意外と良い。
そんな外見のことを考えながらも、スーツの女の攻撃を躱しながらバックステップで距離を取っていく。
基本は黒装束の男とスーツの女の攻撃で、ボスは一定の距離を保ったまま攻撃は仕掛けてこない。
どうやら味方を強化するバフ系の魔法を使えるようで、俺の攻撃が届かないギリギリの位置からサポートに徹している様子。
ボスが攻撃を仕掛けてきた段階で、他を無視して殺しにかかろうと思っていたがこれでは無理だな。
常に仕掛けてきている二人の攻撃を防ぎながら、どっちから先に倒すかを見極める。
バフのお陰か攻撃を行うごとに速度威力共に上がってきているため、早いところ数を減らしたい。
「あー、じれってぇ! ボスも攻撃してくれ!」
「落ち着け。殺せると判断したら俺も参加する」
そんな何気ない会話からボスの狙いが味方へのサポートではなく、俺の動きを観察するのが目的なのが分かった。
数的有利の状況なら俺も同じことを行うため、やはりボスとは気が合いそうだな。
目的が分かった以上、こっちが防御に回っている余裕はない。
狙いをスーツの女に定め、攻撃に転じる。
太刀の弱点は超近距離戦に持ち込むこと。
懐に飛び込み、連撃で一気に攻撃を仕掛けていった――が、俺の目の前にいるのは何故かスーツの女ではなく黒装束の男。
黒装束の男は何度か斬られながらも致命傷は避け、俺の短剣による連撃を防いできた。
ガードに徹してきたとはいえ、殺しにかかったのに殺し切れないとはかなりの誤算。
というよりも、今の目の前で起こった現象が謎過ぎる。
飛び込んで攻撃を行うギリギリまでは、確実にスーツの女が目の前にいた。
攻撃を行った瞬間に突如として黒装束の男が現れ、スーツの女は黒装束の男がいた位置に入れ替わっていた。
この三人の誰かのスキルであることは間違いないが、非常に厄介で面倒くさいスキル。
連携の練度が高くないことだけが救いであり、入れ替わったスーツの女が即攻撃に転じていたら背中を斬られていた可能性が非常に高い。
『ブラッズカルト』は個人の戦闘能力だけでなく、スキルも特殊なものを持つ人間ばかりなのが非常に厄介。
三人の位置関係を頭に入れながら、下手すれば俺の位置すらも入れ替えることができる可能性があることを頭の片隅に置いておく。
未だにうずくまって倒れているエイルを見つつ、俺は短剣を握り直して攻撃を再開。
再びスーツの女目掛けて飛び込み、懐に潜り込もうとしたのだが流石に対応してきた。
俺の動きに合わせて太刀を振り、スーツの女の攻撃に合わせて黒装束の男がくないを投擲。
徹底的に懐には潜り込ませない手段を取ってきたが、その徹底ぶりに光明を見抱いた俺は飛んでくる苦無に臆することなく、スーツの女の懐に突っ込んでいった。
自分からくないに突っ込んでいっている状態なので、避けるという選択肢は取れない。
ただ、このくないを短剣で受け止めてしまうと、俺の動きが止められ攻撃を行うことができないため、攻撃の流れで弾き飛ばせるくないだけを弾き、先ほどとほぼ同じようにスーツの女に攻撃を仕掛けていった。
数本のくないが体に刺さっていくが、勢いを弱めることはせずに短剣を振りかぶる――。
と見せかけ、急停止からの反対方向に急発進。
「くないを受けてまで攻撃を押し通したのに残念だった……あ?」
背後からそんな黒装束の男の声が聞こえてきたが、俺は意に介さずにくないを投げつけていた黒装束の男のいた位置に目掛けて突っ込んでいく。
男が言ったようにくないを受けてまで本気で攻撃を仕掛けたことで、スーツの女と黒装束の男の位置を入れ替えてくれた。
一連の動きはこれが狙いであり、懐に潜られないように徹底していたところを見る限り、スーツの女は予測通り超近距離の対応が苦手。
その上、位置が入れ替わったところを狙えば一切対応することができないだろう。
さっきのことを踏まえてなのか、紛いなりにも連携攻撃をしようと太刀を振り上げた状態で俺の目の前に現れたスーツの女。
俺は斬りかかろうとしているスーツの女の懐に飛び込み、短剣で腹を掻っ捌いて体勢を崩し、喉元を深々と斬り裂いた。
鮮血を噴き出し、声を上げる暇もなく地面に倒れたスーツの女。
そんな光景を目の当たりにした黒装束の男は呆然としているため、このまま攻撃に動き出そうと思ったタイミングで――黒装束の男とボスの位置が入れ替わった。
流れで黒装束の男も殺せていれば、人数での不利はなくなっていたのだが流石に許してくれなかったな。
ただ、この人と人とを入れ替えるスキルを使っていたのが、ボスだということが今のタイミングから分かった。
それと繊細な技術を擁するからか連続での位置の入れ替えが行えないのも、スーツの女を殺せたことで理解した。
原理は一切分からないが、スキルのクールタイムは十秒と認識しておけば間違いない。
くないが数カ所刺さってしまったが、一人削ることができたのは大きい。
能力や動きも把握できているし、間一髪で防がれたが黒装束の男を殺せるのはすぐのはずだ。
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