第63話 大きな目標
ヴェラとの植物採取から三日後。
今日は俺の休日なのだが……日付は二十日。
つまり給料日の翌日でもあり、トレバーとテイトに指導をつける日でもある。
まずは給料の確認から行い、それから指導へ向かう準備を整えよう。
レスリーから貰った給料袋をひっくり返し、早速中身の確認を行っていく。
前回はあまり給料は増えていなかったが、今回は火炎瓶の売り上げが追加されている。
この火炎瓶の売り上げで手元に入る金次第では、いよいよこのボロ宿を出て普通の宿で暮らしてもいいと思う。
期待に胸を膨らませ、俺は給料袋の中身を確認した。
えー、銅貨が六枚に銀貨が二枚。
そして……金色に輝く金貨が八枚入っていた。
前回の給料から、約金貨二枚の給料アップ。
三ヶ月前の給料を考えると、一ヶ月の給料が金貨四枚分も増えたことになる。
火炎瓶の売り上げがかなり大きいが、来月以降も火炎瓶が売れれば売り上げの一割が入ってくる。
それに煙玉も制作中で、『シャ・ノワール』オリジナル商品を作れば作るほど、俺の給料も自然と上がっていくからな。
今はレスリーの財布のひもが固いため、コストのかからないものに限定しているが、属性の魔石を使った魔道具なんかも頭の中では構想している。
最初は配達で足で稼いで次に客寄せ、そしてオリジナル商品がどんどんと増えていけば、『シャ・ノワール』が一等地に構える人気店になってもおかしくはない。
俺なんかを拾ってくれたお礼として、大通りの一等地に『シャ・ノワール』を移店させる。
それまでは全力でアイデアを出しながら配達と宣伝を行いまくると、俺は心の中で決めた
――とまぁ、俺の目標は一度置いておいて、『シャ・ノワール』の客足も安定したと言ってもいいし、これは本当に宿を移ってもいいかもしれない。
一泊銀貨一枚のところに泊まり、生活費含めて一日銀貨二枚に収めることができれば、一ヶ月にかかる費用は金貨六枚。
今月の給料であれば金貨二枚ちょいが余る計算になるため、休日に使える金も残せる。
現在の貯金も金貨四枚とかなり貯まっているし……よし、決めた。
今日のトレバーとテイトの指導を終えてから、新しい宿屋を探して移ろう。
レスリーの次に俺を救ってくれたこのボロ宿との別れは少し寂しいが、それ以上に良い宿屋に移れる方が嬉しい。
指導以外にも楽しみができたところで、俺は二人が待っているであろう門へと向かった。
門には既に二人が並んで立っており、先月よりも何やら距離が縮まったように思える。
俺が半強制的にパーティを組ませたこともあって、少し仲良くなったのかもしれない。
「あっ、ジェイドさんだ! おはようございます!」
「おはようございます」
「おはよう。トレバーもテイトも随分と早いな」
「わざわざ指導してもらうんですから、早く来るのは当たり前ですよ! 今日もよろしくお願いします!」
タイミングを合わせたように、二人同時に頭を下げてきた。
挨拶されるのは気持ちの良い部分があるものの、街の入口だし人目があるため非常に目立つ。
少年と少女に頭を下げさせてるおっさんなんて、変な目でしか見られないためすぐにやめさせた。
それからいつもの平原に移動し、まずは二人の成長具合から確かめる。
この一ヶ月もサボらずに鍛錬を積んだようで、見た目だけでも分かるほど変化が訪れている。
「トレバーもキッチリと鍛錬を積んできたんだな。体つきに大分変化が出てきた」
「はい! この一ヶ月は先月よりも頑張りました! ジェイドさん、私と戦ってくれませんか?」
「言われないでも、最初からそのつもりだった。トレバーの次はテイトだから準備をしておいてくれ」
「分かりました。いつでも戦えるように準備しておきます」
二人同時でも良かったのだが、まずは個々の成長を見たい。
テイトには待機させ、俺はトレバーと向かい合った。
「俺相手の時は真剣で大丈夫だ。殺す気で斬りかかってこい」
「はい! それじゃ行きます」
気合いを入れたように息を鋭く吐いてから、トレバーが真正面から斬りかかってきた。
まだ技術的なことを教えていないため、何の変化もない単純すぎる攻撃だが――悪くない。
基本の型は様になっているし、踏み込みも強くなって一撃の威力が格段に上がっている。
何より体力がついたのか、剣に振り回されることがなくなった。
「あ、あれ……。全然当たる気配がない」
「気にするな。俺を殺すことだけを考えろ」
それから約十分間に渡り、俺はひたすらトレバーの攻撃を避け続けた。
体力が尽きたのか、膝に手をついて息を荒くさせているが……合格だな。
しっかりと剣を振った状態で十分間も戦えれば十分だ。
トレバーの面白顔が見られなくなったのは非常に残念だけどな。
「ぜぇー、ぜぇー。ぜ、全然駄目だ。毎日あれだけ走ったのに、こんなに早く体力が尽きるなんて……」
「駄目じゃないぞ。しっかりと剣が振れていたし、十分合格点を与えられる。今日から技術的な部分の指導を行う」
「ほ、本当ですか!? やったー!」
疲労で飛び上がれないようだが、嬉しさを全身で表しているトレバー。
喜怒哀楽が一目で分かるし、なんというか犬のような感じ。
「次は私ですよね? ジェイドさん、よろしくお願いします」
「ああ。いつでもかかってきていいぞ」
トレバーの合格判定でやる気が出たのか、瞳を滾らせているテイト。
ちなみに先月の時点でテイトは合格だったため、特に気合いを入れる必要はないのだが、全力のテイトが見たいし伝えずにやらせようか。
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