第236話 潜入調査
アルフィ、セルジと酒を呑みに行った翌日の夜。
今日はもう一度、北側のエリアに行ってみようと考えている。
この間は準備不足だったから遠目から眺めるだけに留めたが、今日はしっかりと準備を行って潜入してみるつもり。
万が一見つかっても大丈夫なように準備をしておき、早速俺は北側のエリアに向けて歩を進めた。
前回と同様、昼ように明るい北側のエリア。
二度目でも対比の凄まじさから、思わず見入ってしまう光景。
北側から出られないようにかなりの数の兵士が立っており、その向こう側は獣人たちが大騒ぎしている。
この間もそうだったが、獣人だけでなく普通の人間も少ないながらも混じっているんだよな。
どういった繋がりかは分からないが、人間がいるのであればしれっと混ざることができるかもしれない。
それも含めて、まずはもっと近くで様子を窺いたい。
俺は街を囲う壁まで向かい、よじ登って一度街の外に出る。
この辺りは魔物の数も多いようで、確認できるだけで数十匹の魔物の気配を感じ取った。
強そうな魔物は一匹もいないが襲われると面倒なため、素早く移動して街の外から北側のエリアを目指す。
人の気配がない場所まで移動してから、再び壁をよじ登って街の中に入り、これで北側のエリアに侵入することはできた。
西側のエリアから見えていた建物は立派なものが多かったが、壁際はボロボロのテントが非常に多い。
テントの中から呻き声のようなものを聞こえるため、遠目から見た煌びやかで楽しそうな感じとは違って、獣人側も苦しんでいる人間が多数いることが分かる。
壁際のテント街から、獣人たちが騒いでいた一帯を目指して慎重に歩を進めていく。
……本当に獣人しかいないようで、見かける人間全てが獣人。
受けた印象としては裏の組織というよりは、獣人たちが生きていくために集まった集団。
昨日セルジも言っていたが、生きていくために犯罪に手を染めているのだろう。
組織の構成員には見えない獣人を見てそんなことを考えながら歩いていると、先ほども遠目から確認した賑わっている場所が見えてきた。
ガンガンに照明がたかれていて、楽しそうにはしゃいでいる声も聞こえてくる。
ここまで歩いていたテント街とはあまりにもかけ離れた世界だな。
五感が優れているといえど、これだけ騒いでいたら注意力も散漫になっているはずだ。
慎重には行動するが内側から侵入したこともあって、見つかる可能性は限りなく低い。
多少は大胆に情報を集められると踏んで、俺は眩いほどに輝いている西側のエリアの僅かな闇に乗じて移動を開始した。
騒いでいる獣人のほとんどが、『都影』の構成員と似た雰囲気の若い獣人。
テント街を先に見ていなければ、派手なことが大好きな悪い組織だと思っていただろうな。
夜なのにいくつもの店が開いており、そこで購入した酒や飯を食らって外で大騒ぎするという行動を取っている。
あえて目立つような行動を取っているのも気になるし、組織の中の上にいるであろう連中は今のところ見かけない。
このド派手に騒いでいるのも、何か理由があって行っている可能性があるように思える。
ゴミが大量に捨てられて街が汚くなってもおかしくないのに、綺麗なところを見てもそんなことを思ってしまう。
北側のエリアに侵入して約一時間ほど。
色々と発見はあったが、重要な情報は一つも手に入っていない。
とにかく下っ端らしき人間しかいないのが問題で、騒いでいるだけで大した会話もしていないからな。
セルジから『バリオアンスロ』のリーダーの見た目の特徴を教えてもらったが、それらしき人物も今のところ見かけていない。
見たら一目で分かるらしいし、組織の上の人間はどこかの建物の中にいるのだろう。
安全を期すなら帰るのが得策だろうが、酒も入っているからか思っていた以上に見つかる気配もないし、建物の中を調べてもいいかもしれない。
北側のエリアを回って、気になった建物は二つ。
一つは北側のエリアで一番大きな建物であり、大量の酒や飯を売っている中心にある建物。
ただの大きな店の可能性もあるが、店の奥に上の組織の連中がいてもおかしくない。
もう一つは西側のエリアからも確認できた、北側のエリアで一番高い建物。
築年数も新しそうな綺麗な建物だったし、兵士の動きを上から確認できるあの建物が『バリオアンスロ』のアジトだと踏んでいる。
今日はこのどちらかを調べたいと思っているが、どちらを調べるべきか。
気配を探っても、獣人だからか上手く気配を探れなかったのが痛い。
調べるのであれば、リーダーのリングがいる建物を調べたいが……。
建物の影に隠れながら悩みに悩んだ末、俺は『バリオアンスロ』のアジトと睨んだ方の建物を調べることに決めた。
見つかっても逃げられるように逃走経路の確認をしてから、西側のエリアで一番高い建物の下へと向かった。
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