第17話 ビラ貼り
店の宣伝の提案を行った翌日。
昨日は配達量が多くて忙しく、客足も珍しく良かったようで看板制作が捗らなかったようだが……。
レスリーは閉店後に作業を行っていたようで、出勤すると看板とビラ五枚が既に完成していた。
「レスリー、閉店後に作業したのか? 言ってくれれば俺も残って手伝ったのに」
「馬鹿野郎! ジェイドの給料払うのだってカツカツで、まだ残業代を払えるほど余裕ないんだよ!」
「別に残業代なんかいらない。少し残って作業するくらい無償でやるぞ」
「俺は大雑把な性格だけど、従業員を酷使することは絶対にしたくねぇんだ! キッチリと働いてくれた分の金銭は支払う! いくらジェイドが良かろうとこれは絶対なんだよ!」
なんだか随分と面倒な制約を自分に課しているんだな。
働く身としては従業員思いなのは嬉しいが、確実にレスリーよりも俺の方が体が丈夫な自信がある。
無理して店を閉める――なんてことになったら困るし、手伝えることは手伝わさせて欲しいところ。
「なら、後払いで貰うってのはどうだ? 支払える時になったら支払うってことなら頼みやすいだろ?」
「……確かに、それならいいのか?」
「俺から提案してるんだしいいだろ。手伝えることがあれば気楽に言ってくれ。配達の速度を知っているから分かるだろうが、俺はレスリーよりも体力があるからな」
「そういうことなら気楽に頼ませてもらう! ジェイド、ありがとな!」
俺としては当たり前のことを言っているつもりだが、変なタイミングでお礼を言ってくるため調子が狂う。
なんかこっ恥ずかしくなってきたため、誤魔化しも含めて話を元に戻すことにした。
「それで完成した看板とビラはどんな感じなんだ? 見せてくれ」
「俺的にはかなりいい具合に仕上がったと思ってる! ジェイドが出した案だし、修正したい箇所があれば遠慮なく言ってくれ!」
レスリーに完成したビラを手渡され、俺はすぐにそのビラを確認した。
自作の『シャ・ノワール』の看板もお洒落だし、性格や体格とは似あわず芸術性を持ち合わせているレスリー。
今回作成したビラのセンスも非常に高く、素人目で見る限りは文句ない仕上がりだと思う。
「おー、俺はかなりいい出来だと思う。他店と比べて特に値段が安い商品の紹介と、大まかな店の位置と店の名前。文句をつけるとしたら色使いだけど……このままでも十分目を引くと思う」
「ジェイドのお墨付きがありゃ大丈夫か! 色使いは俺も気にはなったが、色付きのペンは高いからなぁ! 店のイメージカラーは白と黒。それに黒猫がトレードマークだし、黒と黒枠のみで仕上げちまったんだが……やっぱカラーの方がいいか?」
「ひとまずこれでいいと思う。これで客足が微妙だったら、一度回収して色付きで試してみればいいんじゃないか?」
「確かにその通りだな! それじゃ、ビラの設置場所についてはジェイドに任すぞ! 新たな看板は店の前に設置しておくからよ!」
看板が計三つになり、かなりごちゃごちゃしているようにも感じるが、やりすぎぐらいが客の目を引くはず。
閉店後も作業させて何の成果も出なかったら申し訳なくなるため、少しでも客足が伸びてほしいところだ。
ビラを貼らせてもらえたら効果的だと思った場所は目星つけているため、配達がてら交渉してくるとしよう。
レスリーは頑張ってくれたし、ここからは俺の仕事だ。
そう気合いを入れてから、まずはいつも通りに配達から行ったのだった。
配達を済ませて手元に荷物がなくなってから、俺は目星をつけていた一軒目の場所へとやってきた。
その場所というのは、冒険者が一番集まるであろう冒険者ギルド。
道具屋の客層として一番多いのは、やはり冒険者だと俺は思っている。
なのにも関わらず、『シャ・ノワール』に訪れる客はお年寄りばかりで冒険者はゼロに近いからな。
そんな状況のため、どこにビラを出すのが一番良いかと考えた時、一番最初に思い浮かんだのが冒険者ギルドだった。
個人的に冒険者ギルドには一度訪れてみたいという気持ちもあったし、ビラを貼らせてもらえるかは分からないが、交渉するだけなら無料だし何事もやってみないことには分からない。
そんな気持ちで冒険者ギルドへとやってきた俺は、早速中へと入った。
冒険者ギルドに近づくにつれて冒険者の数は増えていったのだが、中は当たり前といえば当たり前だけど武装している冒険者しかいない。
長年殺せるか殺せないかの基準で人を判断してきた俺は、一目見ればその人物の大まかな強さというのが分かるため特に意味はないんだが、冒険者は一個人の強さが誰にでも分かるようになっている。
胸の辺りに金属の薄い延べ棒のようなものを身に着けることが義務づけられており、延べ棒の種類でその人物の冒険者ランクが分かるようになっているのだ。
屑鉄→鉄→銅→銀→金→白金→精銀→金剛の順となっており、その金属に合わせてルーキー→アイアン→ブロンズ→シルバー→ゴールド→プラチナ→ミスリル→ダイアモンドというランクになっている。
噂によるとこれ以上の冒険者ランクも存在するようだが、俺の長い暗殺者人生の中でも俺は出会ったことがない。
……いや、もしかしたら最後の暗殺を行った勇者はダイアモンドランク以上だったかもしれないが、胸に金属の延べ棒を身に着けていなかったし未知のままだな。
とにかくガラの悪い奴ばかりのため、すれ違う度に睨みつけられていたが無視しながら冒険者ランクのことを考えつつ、俺は長蛇の列ができている冒険者ギルドの受付へと並んだ。
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