第60話 やる気満々
煙玉の制作が決まった日から、約二週間が経過した。
火炎瓶の方は無事に制作した百本を売り切り、更に追加で二百本制作したところ。
煙玉に関しても制作の方は順調で、『ローク草』の受注問題が解決すれば売り出せるところまで来ている。
そんな中、今日はヴェラの休みの日であり俺とレスリーで店を回さないといけない日。
配達以外の仕事を教えていないといっても、配達専門として雇ったニアに勘定をやらせた方がいいと思うんだが、ニアは接客が嫌なようで断固として拒否してくる。
嫌なものを無理にやらせる訳にはいかないから仕方ないとはいえ、俺とレスリーの日は露骨に売り上げが下がるからな。
なんとなく責任を感じ、ため息を漏らしつつ店の中へと入ったのだが、そこには今日はいないはずの人物が立っていた。
「おはよ」
「おはようじゃなくて、なんでヴェラがいるんだ? 今日は休みのはずだろ?」
「レスリーにジェイドを貸してくれないかの交渉に来た」
何を言っているのか分からず、俺は思わず首を傾げてしまう。
「ジェイドを外へ連れ出してもいいかって言ってきたんだよ! どうしても毒煙玉を完成させたいみたいで、ヴェラは休日なのに西の森に行くらしいぜ!」
「それに俺もついてこいってことか?」
「ああ。ヴェラはその交渉をしに来たって訳だ! 流石に配達は行ってもらわないと駄目だが、午後からならってことで許可を出したから付き合ってあげてくれ!」
かなり理不尽な要求だと思うのだが、レスリーはやけに嬉しそうで満面の笑みを浮かべて俺にそう言った。
仕事ということだし、レスリーが言うのであれば構わないが……。
ヴェラと俺の二人がいなくて、店の方が大丈夫かどうかがかなり心配。
「大丈夫か? 昔とは違うし、一人で店番って大変だろ」
「心配すんな! 一日くらいなら一人で回せるし、ヴェラがいなけりゃ客の数も少ないからな!」
「……確かにそれもそうか。なら、今日は配達を終えてからヴェラに付き合ってくる」
「よし、決まり。昼過ぎに門の前に集合。装備をしっかり整えてきて」
そう言い残すと、足早に店を去って行った。
礼の一言ぐらい言えと思うが……休日を使ってまで店のことで動いているヴェラを見て、レスリーがニコニコと嬉しそうだし構わないか。
とりあえず俺の分の配達を済ませてから、ヴェラと一緒に西の森へ向かうとしよう。
午前中で配達の仕事を終え、レスリーに一言声をかけてから門の前へとやってきた。
装備に関しては短剣が懐に入れてあるし、わざわざ宿に戻って準備するまでもないだろう。
「やっときた。遅い」
会うなりそう言ってきたヴェラの服装はいつもとは違い、しっかりとした装備に身を包んでいた。
動きやすさを重視しつつも質に関してはかなり高く、この防具が相当な値段がしたことは聞かずとも分かる。
腰に帯びているのは曲刀だろうか。
湾曲した少し変わった鞘なのが、正面からでも分かった。
「別に遅くないだろ。丁度昼時ぐらいだ」
「私は三十分くらい待ってた」
「そんなことは知らない。それで、わざわざ俺を連れて何をするんだ?」
「護衛のようなもの。西の森はそこそこ危険な魔物がいるから。冒険者ギルドで護衛の依頼を頼むと高いし、変なのが多いから」
この感じから察するに、特別俺である理由はなさそうだな。
「そういう理由か。毒煙玉の素材を探すってのは本当なのか?」
「うん。『ベネノセビ』に代わる植物か、丁度よく毒を抑えられる植物を探したい。出回っている解毒草とかだと効果が強すぎるから」
下手したら、『シャ・ノワール』に関係のないことなのかとも考えたが、本当に毒煙玉の素材についてを探すようだ。
店に来たばかりの時と熱量が違い過ぎて、未だに色々と疑ってしまう。
「まぁ分かった。とりあえず俺は見張りをすればいいんだな」
「そう。大抵は私が倒すと思うから、危なくなった時とか採取している時はよろしく。……でも、そんな装備で大丈夫? 私、しっかりと装備を整えてきてって言ったんだけど」
「大丈夫だし、そもそもしっかりとした装備なんか持っていない。元冒険者じゃないからな」
「大丈夫ならいいけど、ちゃんとやってね」
大抵の魔物なら素手で倒せるし、万が一の場合は短剣を使う。
化け物が現れたとしても魔法で対応できるし、ドラゴンや魔王でも来ない限りはまず問題ない。
口が裂けても言葉にはできないため心の中でそう返答し、俺はヴェラの後について西の森へと目指した。
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