第137話 次のアイテム
閉店後、俺とヴェラは久しぶりに二人並んで歩いている。
先ほど新しいアイデアを煮詰めようという案を伝えたのだが、どうやらヴェラも同じことを考えていたようで二つ返事で了承を貰った。
そして今回は実験がないため、俺の知っている最高の店の一つである『パステルサミラ』にやってきた。
プリンというものを食べて見たかったため、本当はアリアーナの家に行きたかったのだがあそこは店ではないからな。
いきなり行っても料理を提供してくれる訳もないし、そもそもいきなり行けるような間柄ではない。
何度かエイルに連れて行ってもらって、俺自身がアリアーナと仲良くならないと食事を提供してもらうことはできないと思う。
「着いた。この店で話し合いをしよう」
「ここ? 何かあまりおいしそうじゃない」
「食えば美味いってことは分かる。早く中に入ろう」
外観を見て不満そうな表情を見せたヴェラを急かし、『パステルサミラ』に入る。
店員にいつもの個室へと通してもらい、早速注文を行った。
「へー。決まった料理があるんだ」
「ああ。この店では、とりあえずフォレストオックスのすじ煮込みを食べておけば間違いない。それじゃ料理が届くまで軽く話をするとしよう」
「新しい魔道具のついてだよね? 前回話したやつを作るの?」
「俺はそのつもりでいる。まず何を作るかを決めたい」
前回出したアイデアは冷温風の魔道具、服を乾かす魔道具、掃除用の魔道具の三つ。
一番無難なのは冷温風で部屋の温度を調整する魔道具で、一番簡単に作れるのは服を乾かす魔道具。
そして、一番需要がありそうなのは掃除用の魔道具と言った感じだろう。
風を吹き出すのではなく、吸引に切り替えることさえできれば、俺は掃除用の魔道具を作りたいと思っている。
「私は掃除の魔道具が欲しい。絶対に便利」
「俺も同意見だな。一番欲しいのは掃除用の魔道具だが、制作に一番時間がかかるのは間違いない」
「吸引させるってのは至難の業。普通に風を送るだけでも時間かかったし」
「俺も色々と試していたが、魔石での細かい操作は難しいんだよな」
俺自身の魔力で吸い込む風魔法を扱うことはできたが、魔石を介してだとできなかった。
魔石に何かしらの細工を行わないと、吸い込むようにはならないはず。
「詳しい人に尋ねてみるのが早そう。ジェイドは知り合いにいないの?」
「風属性の魔石を買った店の店主とは知り合いではある。その後も何度か買いに行ったし相談には乗ってくれるとは思うぞ」
「なら、まずはその人に聞いてみよう。可能なら掃除の魔道具を作って、無理なら他の魔道具を作る」
他に思いつく方法もないため、その選択しか取れないよな。
第一候補は掃除用の魔道具として、駄目だった時のことも考えておいた方がいい。
「無理だった時は何を作る? 髪を乾かす魔道具と似た原理の、服を乾かす魔道具ならすぐに作れると思うんだが」
「掃除の魔道具が無理ならそれでいいと思う。まずは乾燥させる魔道具を作って、冷温風の魔道具も作成して良いんじゃない? どっちも作り方は似ているでしょ」
「実際のところは職人に聞かないと分からないが、大きさが違うだけで似たようなものだとは俺も思ってる」
「私も同じ意見だから、そんな感じの動きでいいんじゃない?」
こんな安直でいいのか考えてしまうが、派生した魔道具を売り出すって目的で髪を乾かす魔道具を作った訳だしな。
他のアイデアも考えたい気持ちにもなるが、ひとまずはこの段取りで良いはず。
「だな。それじゃ……話し合いはこんなものか?」
「魔道具については終わりでいい。実は私からも相談したいことがある」
「ヴェラからの相談? 毒煙玉についてか?」
「違う。新しい戦闘用の道具を作りたいから、ジェイドにも手伝ってほしい」
頭にもなかった話を聞かされ、返事をするのにワンテンポ遅れてしまった。
「毒煙玉を完成させたばかりで新しい道具を作ろうとしているのか?」
「うん。毒煙玉が成功したし、次のアイテムを作りたい」
「良いことだとは思うが……一体何を作ろうとしているんだ?」
「一番の候補は小型の爆弾。次点は目晦まし玉か臭い付きの煙玉って感じ」
小型の爆弾か。
火炎瓶でも十分な威力を誇っているが、威力を更に強化できれば確かに需要はあると思う。
フレイムセンチピードのような刃が通らない硬い外骨格を持つ魔物に対し、攻撃を行う切り口を作ることもできるしな。
威力によっては毒煙玉と同様に、命の危険に晒してしまう心配もあるが……面白いといえば面白い。
「三つの案とも良いと思うぞ。ただ臭い付きの煙玉は、毒煙玉の次に出すものとしては弱く感じる」
「じゃあ小型の爆弾か目晦まし玉?」
「次に作るのはどっちかでいいんじゃないか? すぐに作成できるのは目晦まし玉だが、小型の爆弾が作りたいなら着手していいと俺は思う」
「ジェイドが良いって言ってくれたなら、小型の爆弾を作ってみる。レスリーが制作費を出してくれるか心配だけど」
「毒煙玉を成功させたんだから出してくれるだろ。渋ったら説得には協力する」
「うん、助かる」
そんなタイミングで、料理が個室に運ばれてきた。
美味そうな爆発的な匂いが一瞬で部屋の中に充満し、ヴェラも食い入るように料理を釘付けとなった。
小型爆弾の話を詳しく聞きたいが――まずは料理を頂くのが最優先だな。
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