第140話 テイトの情報
二人の話によれば、西地区に住んでいるということを以前言っていた。
依頼で外に出ている可能性も大いにあるが、二人の気配は分かっているためすぐに見つけることができるはず。
配達以外では久しぶりの西地区に足を踏み入れ、まずはピンク通りから探していく。
安宿は基本的にピンク通りにあるため、寝泊まりしているとなればこの付近である可能性は高い。
俺が寝泊まりしていた安宿を見て懐かしみながら二人を探したのだが、ピンク通りには二人の気配はなかった。
あとは露店市か、その先にある闇市となってくるが、これから情報収集を行う闇市には近づきたくないため、露店市付近を探していなかったら諦めよう。
そう考えてから露店市に向かい、捜索を開始してすぐテイトの気配を察知した。
気配というか特徴的な足音を聞きとったのだが、この歩き方は間違いなくテイトのもの。
隣にトレバーらしき人物の気配もあるため、二人は露店市に買い物に来ている様子。
足音を頼りに二人の下へと向かい、俺がよく通っていた露店の前で肉串を頬張っている二人の姿があった。
「テイト、トレバー。夕食を取っているのか?」
「えっ!? ジェイドさん!! なんで露店市にいるんですか!」
「偶然……ってことではないですよね? 私達に何か用事があったんでしょうか?」
急に声を掛けた俺に酷く驚いた様子だったが、テイトはすぐに俺が何かしらの用事があって来たことを察してくれた。
「ああ。テイトに聞きたいことがあって探していた。少しだけ話を聞いてもいいか?」
「えー! また僕だけ仲間外れですか?」
「仲間外れとかではない。別にトレバーも聞きたいなら聞いてもいいが……聞いたことで何かあっても、俺は一切の責任も取れないからな」
「えーっと……じゃあ僕は露店巡りでもしていますね!」
そそくさと人混みに消えて行ったトレバーを見送り、テイトともに早速人気のないところへ移動する。
トレバーを外させたことで何を聞きたいか察してくれたようで、俺が何かを尋ねる前にテイトの方から話し始めてくれた。
「ジェイドさんが聞きたいのは『都影』のことですよね? 薄っすらとですが、私の耳にも『都影』の新しいアジトについては届いています」
「薄っすらと耳に届いている? 誘われたりした訳じゃないよな?」
「冒険者ギルドで『都影』の構成員らしき人物が勧誘を行っているんです。私もトレバーも強そうには見えないのか誘われてはいませんが、冒険者が誘われているところは目撃しました」
まさかの冒険者ギルド内で勧誘が行われていたとはな。
『都影』の構成員には冒険者崩れも多いだろうし、理に適っているといえば適っているのか。
『都影』を狙っているのが冒険者ギルドだとは分かっていない訳がないため、思っていた以上に大胆な行動を取っている。
なりふり構わず動いているとしたら、ちょっと厄介度が増すな。
「そんな大胆に動いているんだな。他に何か『都影』について情報は知らないか?」
「すいません。私が持っている情報はそれぐらいですね。ここ最近は冒険者業に集中していて、情報集めを怠っていました。申し訳ございません」
「いや、それで構わない。それじゃ他の情報はないってことか」
ある程度予想していたが、情報を全く得られなかった。
聞き込みでの情報収集は諦め、地道に足で稼ぐしかなさそうだ。
「あっ……でも、今の『都影』はほとんど分からないですが、昔の『都影』についてなら知っていますよ」
「ん? どういう意味だ?」
「えーっとですね、新しくこの街に来た人物の情報とかなら、もしかしたら知っている可能性があります」
なるほど。
マイケルの言っていた例の大男の情報なら、テイトも知っている可能性があるってことか。
それだけ強いってことは、下っ端であったテイトも何かしら知っている可能性がある。
「大男について何か情報を持っていないか? 最近この街に来て、俺が殺した支部長よりも強い人間らしい」
支部長とマイケルを襲った女が同等の強さだったため、マイケルの話を本当だとすると支部長よりも強いことになる。
テイトは俺の話した情報にピンときたのか、軽く手を叩いてから情報を話してくれた。
「多分、知っています! 本部にいるヴァンダムって人ではないでしょうか? 幹部の一人で『都影』で一番の実力を持っている人っていう話を聞いたことがあります」
「『都影』で一番の実力者がヴァンダムって男で、そいつが大男なのか?」
「体の大きさまでは分からないですが、支部長よりも強い人物と言ったらその人しか知らないですね。もしかしたら別人の可能性があります。曖昧な情報で申し訳ありません」
「なるほど。ヴァンダムについて他に知っている情報はないか?」
「誰も手を付けられないほど暴虐な性格らしいです。組織内での違反行為も一番多く、常人だったら制裁で殺されているぐらい暴れているみたいですが、実力だけで幹部の地位についている――って話を聞きました」
戦闘能力だけで幹部まで上り詰めた男か。
話を聞く限り、マイケルの話していた大男と合致する点があるため、大男とヴァンダムはほぼ同一人物で間違いない。
ただの狂暴な男だったら殺すは簡単そうであるが、実際に見てみないと分からない点が多いな。
名前と性格だけでも分かっただけで、テイトに情報を聞きにきた価値はあった。
「情報を話してくれてありがとう。助かった」
「役に立てたのなら良かったです。……これから『都影』と一戦構えるのですか?」
「そう大したものではないが、攻撃を軽く仕掛ける。そのため、危険な人物の情報を知りたくてテイトのところまで来たって訳だ」
「私が言うことではありませんが、くれぐれも気をつけてください。ジェイドさんにはこれからも指導してほしいですから」
「ああ、絶対に死ぬことはない。テイトも冒険者の方を頑張れよ」
「はい! 時間を使って頂いているので、私もトレバーも絶対に強くなりますよ」
「それは楽しみだな」
力強く宣言したテイトに軽く笑いかけてから、俺は露店市を静かに後にした。
良い具合に時間を使うこともできたため、日が完全に暮れるまでもう少しだけ待って――テイトの情報を元に偵察に動くとしよう。
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