第124話 比較対象
息を切らしながら平原に転がる二人。
アイアンランクに上がり、相当な自信も実力もつけてきたようだが……まだまだな。
直近でフィンブルドラゴンと戦ってきたこともあり、もしかしたら前回の指導の時よりも差が開いた感じが俺の中ではある。
比較相手がドラゴンなのはあまりに酷ではあるのだが、こればかりは仕方がない。
「はぁ……はぁ……。ジェ、ジェイドさん、強くなってませんか!?」
「ふぅー……動きが前回よりもキレている感じがします。攻撃が当たる気が一切しませんでした」
「そんなことはない。何度も言うが、俺に攻撃を当てることができればミスリルランクはあることになる」
「なら、単純に僕達の実力不足なんですね……」
残念そうに呟いたトレバーを後目に、これから向かう場所についてを考える。
先週行った北の山も良いとは思うが、流石に遠すぎるのが引っかかる点。
指導後に武器を新調したいのと、フィンブルドラゴンの加工を行ってくれそうな店も探したいし、俺自身できるだけ遠くに行くのは避けたい。
となってくると、前回と同じように西の森に行くのがベストだろう。
西の森にはフレイムセンチピードを狩りに頻繁に行っていたため、その時に良さそうな場所の目星はつけている。
前回のオーク戦で場所への慣れもあるだろうし、今回も西の森で二人には戦ってもらうとしようか。
「二人共、体力の方は回復したか?」
「えっ? ま、まだ回復して――」
「もう大丈夫です。これから魔物との戦闘ですか?」
トレバーの発言をかき消すように、立ち上がったテイトが質問を行ってきた。
トレバーはそんなテイトを口をぽかんと開けて見ている。
「そうだ。また西の森で魔物と戦ってもらおうと思っているんだが、準備はできているか?」
「もちろんです。今回は倒すつもりで挑みます!」
「西の森ってことはまたオークとやるんですか? オークなら僕も倒せるんじゃないかとは思えているんですけど……」
前回の戦闘でも押していたし、剣がまともなら倒せていたまである。
そんな記憶が残っているのか、トレバーが少し自信あり気な様子を見せたのだが……残念ながら今回はオークではない。
「違う。今回戦ってもらう魔物は、ベノムマンティスという猛毒を持った魔物だ」
「ベノムマンティス……ですか? オークよりも強いんでしょうか?」
「あっ! 僕、聞いたことあります! 確か、ゴールドランクの冒険者の依頼に貼りだされていました!」
テイトの質問に答える前に、トレバーが思い出したように声をあげた。
トレバーの記憶の通りで、ベノムマンティスは難度Cランクの魔物。
西の森ではその強さから天敵がいないほどの強い魔物であり、二人にとっては明らかな格上。
鋭いカマには猛毒があり、切り裂かれたら命を落とす可能性のある危険な魔物。
「その通り。難度はCの推奨討伐ランクはゴールドと言われている魔物だ」
「推奨討伐ランクがゴールドって、オークよりも何倍も強いですよね? 私とトレバーだけで大丈夫なのでしょうか?」
「剣も強くしたからな。その分相手を強くした方がいいと思ったのだが、もう少し弱い相手の方がいいか?」
珍しくテイトも乗り気ではなさそうなため、別の提案をしてみる。
俺が見ている限り、二人に命の危険は及ばないが……強すぎる相手では練習にすらならないのも事実。
候補ならあと四つあるため、テイト次第ではもう少し弱い相手を見繕うことも可能。
「…………いえ。ひとまずベノムマンティスと戦ってみます」
「えっ!? テイト、本気で言っているの? 討伐推奨ランクがゴールドで僕達まだアイアンだよ!?」
「強い相手と戦った方が強くなれるから。それにジェイドさんがいれば死にはしない。……ですよね?」
「ああ、危険だと思ったらすぐに助けに入る。オーク戦の時みたいにな」
俺のその言葉で覚悟が決まったのか、テイトは自分を言い聞かせるように大きく頷いた。
その覚悟の決まったテイトの姿を見て、トレバーも諦めがついたようで情けない顔で渋々頷き返した。
「それでは、ベノムマンティスのいる場所まで案内お願いします」
「ジェイドさん、絶対に守ってくださいね! 僕は助かると思って全力で戦いますから!」
「任せてくれ。二人を死なせるようなことはしない。それじゃ向かうとするか」
こうして二人を連れ、前回と同じように西の森を目指して歩を進めた。
ベノムマンティスはかなりの強敵だが、二人なら良い勝負ができるのではと俺は密かに思っている。
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