第165話 二人の実力
ディープロッソは夜行性なのか、以前夜に訪れた時は動き回っていたが今回は眠っている。
まずは起こすところから始め、そのままこっちの広い場所へと誘き出したい。
ミント系の匂いのものか、煙を嗅がせることですぐに目覚めるとは思うが、てっとり早いの煙だろう。
火属性魔法で木を燃やし、風向きを考えてディープロッソに届くように煙を飛ばす。
臭いに敏感なようで煙を焚くとすぐに目を覚まし、周囲の様子を窺い始めた。
以前のディープロッソとは別格の大きさで、横にも縦にも非常に大きく感じる。
わざとらしく音を立てて注意を惹き、俺に気づいたことを確認してから背中を見せて逃走を図る。
そんな俺の動きに釣られ、まんまと追ってきたディープロッソを二人のいる場所へと誘導した。
「連れて来たぞ。死ぬ前に助けるから全力で戦え」
「うわっ! 思っていたよりも大きい!」
「私がサポートするから、トレバーは全力で攻撃して。攻撃の方法は分かってるよね?」
「同じ個所を何度も! だよね?」
「そう! それじゃ――行こう」
テイトの合図と共にトレバーが走り出し、俺と入れ変わる形でディープロッソの前に出た。
そんなトレバーの後ろにはピッタリとテイトが張り付いており、ディープロッソからトレバーを守れる位置に立っている。
俺も二人を助けられるようにつかず離れずの位置で立ち止まり、二人の戦闘をワクワクしながら見守る。
突然現れた二人に一瞬立ち止まったディープロッソだったが、背も低く俺以上に弱そうな二人に対して警戒する必要もないと判断したのか、様子を見ることなく勢いそのままに襲い掛かっていった。
動きは相当速いが、攻撃は単純そのもの。
何の駆け引きもない単純な爪での引っかき攻撃に対し、トレバーはテイトのサポートなしに楽々と躱しながら――まずは一太刀、ディープロッソに食わせた。
身体能力では圧倒的にディープロッソの方が上でも、動きが読めるのであればトレバーも躱すことができるんだな。
ベノムマンティスの時は攻撃全振りだったが、今は少しだけ立ち回りを変えてきている。
テイトだけに任せるということがなくなり、トレバーだけでも戦えるというのは非常に大きい。
それでもって思い切りの良さが消えている訳でもないし、良い方向に成長できているということが今の一連の攻防だけでも分かった。
「トレバー、一度下がって」
ディープロッソの僅かな変化に気づいたテイトが指示を飛ばし、一度テイトとトレバーの位置を変えた様子。
テイトの危機察知は完璧で、今の一撃でスイッチが入ったディープロッソの攻撃は激しくなり、そしてバリエーションも豊かになった。
フェイントとまではいかないが連続した攻撃を多用し、テイトのガードを崩すような攻撃を加えてきているが……。
テイトはそんなディープロッソの攻撃を難なくいなし、踊るように攻撃を躱し続けている。
「テイト! もう攻撃できる!」
「了解。タイミング合わせて攻撃して」
しばらくの間テイトの後ろに隠れて様子を見ていたトレバーだったが、再び前線へと飛び出しディープロッソへの攻撃を開始。
テイトが躱すのがメインの避けタンクのような立ち回りをしながら、隙を窺いながらトレバーが一撃を入れる。
連携の取れた攻撃にディープロッソは対応できておらず、単調な攻撃を繰り返すだけとなっていた。
トレバーの動きも最初と比べて格段に良くなっていることから、テイトの真後ろで動きを観察してディープロッソの特徴を掴んだのが分かる。
胸と左腕、それから首元へのダメージも積み重ねられており、既に血液も流れ始めている状況。
特にテイトのカウンターには一切対応できておらず、俺が想像していた以上に二人は強くなっていてディープロッソが手も足も出せていない。
「このまま決めきろう。トレバーは左腕をお願い」
「了解! テイトは僕の動きに合わせて!」
わるあがきをされる前に倒し切る算段のようで、トレバーが大振りの一撃を左腕に浴びせ、テイトは胸への攻撃を連続してぶち当てた。
ディープオッソの低い雄叫びと共に鮮血が飛び散り、コケるように胸から地面に倒れた。
転ばせたことに対しても冷静さを失わず、テイトはすぐさま突き上げるように目に短剣を突き立て――真横へと回り込んだトレバーは首元に剣を振り下ろした。
力が足らなかったせいで首を完全に落とすまではいかなかったものの、致命傷と呼ぶには十分な深さであり、ディープロッソは痙攣させるだけで倒れたまま動く気配がない。
「た、倒せたよね!? 僕達が倒したんだよね!?」
「もう流石に動かないと思うし……倒せたと思う」
「や、やったあああああ! ジェイドさん、見ててくれましたか!?」
無邪気な笑顔で喜んでいるトレバーだが、ディープオッソの返り血のせいで狂気に満ち満ちた姿になっている。
と、まぁ外見については置いておくとして、完全に真っ向勝負でディープロッソを倒してしまったな。
二人よりも実力が上の魔物を用意したつもりだったが、戦いの内容も互角とはいえないもの。
テイトとトレバーの成長速度を侮ってしまったのは反省するべき点だが、何よりも強くなった二人の姿が見れて本当に良かった。
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