第301話 変な人形
参加者は俺、ゼノビア、アラスターの三人だけだったが、盛大に送別会を開いてもらった翌日。
俺は兵舎にある荷物をまとめ、帝都から出る準備を整えている。
色々と早すぎる気もするが、一刻も早くヨークウィッチに戻りたいという気持ちが強く、元々ヨークウィッチに早く戻るために寄り道もせずに動いてきたからな。
ゼノビアには恩義を感じているし、もう少し残って稽古をつけてあげたい気持ちはあったのだが……今回は早めに帰らせてもらう。
ヨークウィッチのことで頭いっぱいになりながら荷物を纏めた俺は、出立する前にケイティが営んでいる質屋に向かうことにした。
ケイティには短い付き合いだったがお世話になったし、ケイティのお陰でクロまで辿り着いたと言っても過言ではない。
それに俺は道具屋の店員であり、質屋を営んでいるケイティとは何かしら別の機会でまたお世話になるかもしれないしな。
礼節を弁えて悪い事はないため、俺は纏めた荷物はまだ部屋に置いたまま質屋へと向かった。
いつもは人で賑わっている質屋だが、今日は開店直後ということもあって客が誰一人としていない。
一番乗りできたことに少し嬉しく思いながら、俺は店の扉を開けた。
「いらっしゃいま――って、ジェイドか。また情報を買いに来たの?」
俺の顔を見た瞬間に、露骨に嫌な表情を見せていたケイティ。
結局、俺はここまで一度も商品を買っていないし、まぁこの対応になるのも仕方がないか。
「そんな露骨に嫌そうな表情をしないでくれ。情報料は多く払っただろ?」
「多くは貰ったけど、そもそも情報屋をメインにやっていないからね。私の店の商品を買ったら愛想良くもするよ」
「なら、今日は買わせてもらおうか。今日で帝都を去るから、このまま嫌な客として認識されたままというのは避けたい」
「買ってくれるならありがたいけど……もう帝都を去ってしまうのね」
「ああ、もう用が済んだからな」
「ということは、ジェイドが調べていたブレナン……いや、深く聞くのはやめておくわ」
ケイティは既に察したようだが、途中で言葉を止めてくれた。
重要な情報を貰った訳だし、俺はケイティに教えても良かったんだが、気を使ってくれたなら黙らせてもらおう。
俺は買う商品を選ぶべく、商品棚を見て回る。
……この間も見たが、やはりマニアックな商品が多すぎて手を出し辛い。
というか、何が良いのかも分からない状態。
だからといって、この店で一番安い商品を買うっていうのも何か違う気がするため、ケイティにおすすめの商品を尋ねることにした。
「ケイティ、何かおすすめのものはあるか? 買うとは言ったものの、何がなんだか分からない」
「別に無理に買わなくてもいいんだけど、どうしても買いたいっていうならこれはどう?」
ケイティが俺に見せてきたのは、オカルトチックな変な木彫りの人形。
最初に思った感想としては“いらない”だったが、他に欲しいものがある訳じゃないしこれを買わせてもらうとしよう。
「それならその変な人形を買わせてもらう」
「変な人形って。意外と優れものなんだけどね……。まぁ買ってくれるならありがたいわ」
「値段は金貨三枚か」
この変な人形に金貨三枚は高すぎるが、まぁギリギリ許容範囲内。
麻袋から金貨三枚を取り出し、ケイティに手渡す。
「はい、毎度あり。また帝都に来た時は寄ってね。今度はしっかりお客様として歓迎してあげる」
「それはありがたい。……あっ、そうだ。この辺りの良い土産屋さんを知らないか? 帝都のお土産を買って行きたいんだが、店には疎くてな」
また情報を聞くような形になってしまったが、みんなへのお土産を買う場所を決めていないことに気づいてしまった。
「お土産屋? メインストリート歩いてればいっぱいあると思うけど……おすすめの店って言われたら『ガトーランド』かな。とにかく種類が豊富だから、この一軒で完結できるわよ」
「『ガトーランド』か。教えてくれてありがとう。早速だが行かせてもらう。……ちなみに酒は売っているか?」
「お酒は取り扱ってなかったと思う。帝都でお酒を買うなら、間違いなく『アマヅヤ』がおすすめ。帝国中の酒を取り扱っていて、希少な地酒とかも売っている」
「流石に情報通なだけあって詳しいな。買った商品の金銭分の情報を頂いた気分だ」
「帝都に住む人なら誰でも知っているような情報だし、絶対に金貨三枚分の価値はないわ。無理に買ってくれたみたいだし、これぐらいの情報なら喜んで教えるわよ」
「それはありがたい。また帝都に来た時は必ず寄らせてもらう。本当に色々と世話になった」
「こちらこそ、色々とお金を落としてくれてありがとね」
こうしてケイティと別れ、購入した変な人形を持って質屋を後にした。
最後の最後も良い情報を貰えたし、兵舎に荷物を取りに戻る前にお土産を買いに行くとしよう。
みんなのお土産は『ガトーランド』で購入し、酒好きのレスリーへの土産は『アマヅヤ』で買う。
使いきれないくらい貯めていたはずの金も残り少なくなってきたが、また『シャ・ノワール』で働き始めればお給料をもらえる。
気が早すぎるが、『シャ・ノワール』で再び働き始めた時のことを考えながら、俺はみんなのお土産を購入したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます