第270話 原因不明


 兵士長の下に戻り、詳しいことを尋ねることにした。

 この一件が終わり次第すぐに帝都に向かう予定だったが、何だかモヤモヤする結果になってしまったな。


「死体を見てきた。確かに自分の腕で心臓を貫いていたな」

「そうなんだよ! 本当に何の前触れもなく、急に自分で自分の心臓を貫いた。魔力の干渉もなかったから、操られて殺されたとかもないと思うぜ!」

「そのことで一つ気になったんだが、腕の筋肉の硬直具合いが変に見えた。確かに魔力を帯びていなかったし、奴隷紋といったものも見受けられなかった。ただ、同じような現象を昨日見ている」

「ん、昨日……? あっ、俺達を襲ってきた兵士たちか」

「そうだ。多分だが、同じ要領で操られたのだと思う。昨日操られていた兵士を調べたら何かしら見つかるかもしれない」


 可能性としてはかなり薄いとは思うが、どうやって操られたのか分かる可能性もある。

 幸いにも三人とも死んでいないようだし、実際に話を聞くだけでも分かることはあるはずだからな。


「アルフィが刺されたことは聞いていたが、操られた兵士に刺されたのか! 分かった。すぐに話を聞きに向かわせる!」


 兵士長はすぐに指示を出し、近くにいた看守らしき人たちを向かわせた。


「でもよ、それもそれでおかしくないか? ヴィクトルが兵士を操っていたんだろ? てことは、自分を操って死んだってことで……色々おかしいだろ」

「ヴィクトルが操っていたんじゃなく、他の誰かが操っていた可能性もあるし、誰でも人を操ることができる方法というのもあるかもしない」

「魔法とかスキルじゃなくて、誰でも人を操ることができるって……。そんなことあり得るのか?」

「分からないが、分からない以上様々な可能性を考えないといけない」


 俺もセルジと同様にありえないとは思っている。

 仮にそんなアイテムがあるのだとしたら、アーティファクト級のアイテム。

 スパイをさせているヴィクトルに渡すような代物ではない。

 

 ただ、詰所の周囲には気配がなかったし、他の誰かが操っていた可能性の方が俺としては考えられない。

 何にせよ、今は見当もつかない状態だな。


「全部ヴィクトルから聞き出してればよかったんだがな。本当に申し訳ねぇ!」

「俺もアルフィが刺されるのを止められなかったし、どう拘束していても死んでいただろうから仕方ない。ヴィクトルの死因については後で話を聞いて考えるとして、昨日はなんで失敗したのかを聞いてもいいか?」

「俺も気になっていたっすね。なんで失敗したんすか?」

「なんでと言われてもなぁ……。本当に実力が――」


 そこまで言ったところで、何かを思い出したように手を叩いた。


「もしかしたらだが、こっちでも人が操られてたかもしれねぇ! 地上と地下通路から制圧しにいったのは伝えたよな? 俺が先導していた地下通路の方は何とか押し切れたんだが、地上の方が戦闘で負けて敗走。俺達は倉庫の扉を塞ぐことで、何とか地下通路と倉庫は押さえたんだわ!」

「そこまではセルジから聞いたな。そのことと何が操られていたことに関係するんだ?」

「まず地下通路でも軽く戦闘があって、俺ももちろん戦ったんだが――殴った感触が人形みたいだった。反応が悪いというか、弱いのに謎にじぶといし違和感があったんだわ!」


 急に感覚的なことを話し始めたため、いまいち理解ができない。

 関係しているのか関係していないのか。ここはハッキリさせておきたいところ。


「兵士長の感覚だけを信じていいのか? それだけでは関係あるとは思えないんだが」

「それだけじゃねぇ! 地上から攻めた奴らが負けたのも、敵が自爆気味で攻撃を仕掛けてきたかららしいんだ! 俺達が負けて敗走した訳だが、死者数でいったらこっちはゼロ。対する『バリオアンスロ』側は数十人は死んでいたと報告を受けている! 追い込まれた連中が自爆を行うことはたまにあったし、それ以上に失敗したこともあってその部分は気にならなかったんだが、今考えると違和感が凄くねぇか?」


 断定はできないが、敵味方問わず自在に操ることができるのだとしたら、関係しているのかもしれないと思う出来事。

 命を投げうてるのはそう簡単なことではないし、調べた限りでは『バリオアンスロ』は居場所のない獣人が集まった組織。

 騒いでいた若者の獣人を思い返す限りでは、到底『ブラッズカルト』と同じような忠誠を組織に誓っていたとは考えられない。


「その話を聞くと確かに操られていたのかもしれないな。そうなると個人ではなく、集団をも自由に操れる……か」

「何か未だに信じられないな。俺も昨日、兵士が操られたところを実際に見たのに」


 セルジ同様に、俺も訳が分からなくなってきた。

 ただ、潜入してこの目で見た情報を考えると、『バリオアンスロ』の力ではない気がする。


 そして、俺から尋ねない限りまだ名前すら聞けていない状況だが、クロが関係しているのでないかと薄々思っている。

 育ての親であり、俺に暗殺術を叩き込んだ師のような存在でもあるため、買いかぶっているだけかもしれないが……クロなら可能にしていてもおかしくはない。


 エアトックの街も不穏さが漂い始めたが、これ以上手助けしたら俺のことを悟られる可能性が高くなるし、帝都に向かう方が賢明だな。

 もう一度『バリオアンスロ』を調べるか、帝都に行って『モノトーン』に近づくかを一瞬迷ったが、予定は変えずに俺は帝都に向かう。

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