第135話 メタルトータス


 食器を片付け終えたアリアーナが戻ってきて、俺達に紅茶を出してくれた。

 落ち着く香りの紅茶を飲んで一度気持ちをリセットしてから、再び続きを話し始める。


「これで私からの話は以上です。ギルド長の話に移って大丈夫ですよ」

「やっと俺の番が回ってきたか! ……って、何の話をしていたんだっけか?」


 先ほどの話に引っ張られたようで、話していた内容を忘れたようだ。

 エイルは本当に一つのことしか考えられない性格って感じだな。


「ベニカル鉱山のメタルトータスを狩りに行こう――という内容の話だった」

「あっ、そうだ! ジェイド、俺と一緒にベニカル鉱山へ行こうぜ! メタルトータスもメタルトータスで、普通のメタルトータスじゃない奴が目撃されてんだよ!!」


 興奮気味で話しているが、そもそもメタルトータスがどんな魔物なのかが分からない。

 メタルでトータスってことから、硬そうな魔物ってことぐらいは想像できるがな。


「俺は普通のメタルトータスも知らない。行く行かない前に、そのメタルトータスについての説明をしてくれ」

「メタルトータスを知らないって本気か!? 冒険者で知らない奴はいないし、冒険者ではなくても知ってるだろ!」

「知らないんだから仕方がないだろ」


 口をあんぐり開け、心底驚いた表情を見せたエイル。

 マイケルも似たような表情のため、本当に幅広く知られている魔物なのだろう。


「そういうことなら、私の方から軽く説明させてもらうよ。メタルトータスという魔物は、背中に金属の甲羅を背負っている魔物だね。鉱石が主食なため鉱山にしか生息しない珍しい魔物だよ」

「へー。なんでそんな珍しいとされる魔物が有名なんだ?」

「そりゃよぉ……冒険者が一攫千金を狙うための象徴のような魔物だからだろ! 冒険者をやってりゃ、誰しも一度はメタルトータスの名を聞くぞ!」

「甲羅の金属は個体によって違うのだが、何にしても珍しい金属ばかりなんだよ。基本的にはミスリル、運が良ければダイヤモンド。噂によると長年生きた個体は、オリハルコンやヒヒイロカネといった伝説の金属を持ったメタルタートルもいるらしいね」


 マイケルの説明が本当なのであれば凄い話だな。

 売れば億万長者で、武器に加工すれば一気に戦力アップを図ることができる。


 冒険者にとっては夢のような話であるって訳で、有名な魔物というのも納得できた。

 現金な話だが、マイケルの話を聞いてかなり興味が沸いてきたな。


「なるほど。そんな魔物がベニカル鉱山ってところで目撃されたのか」

「そうだ! それも普通のメタルトータスじゃない! なんでも虹色に輝くメタルトータスが目撃されたんだぜ!? 伝説の金属の甲羅を持つメタルトータスかもしれない!」

「私は信憑性があると思うよ。ベニカル鉱山にはマグマデルヘッジがいるから、麓付近までしか基本的に立ち入らない。誰にも見つからず、成長を遂げた可能性が十分に考えられるね」

「ジェイド、どうだ!? 俺と一緒にベニカル鉱山に行こうぜ!」


 丁度、ダンに珍しい金属をプレゼントしたいと思っていたし、行ってみたい気持ちの方が今は強い。

 ただ休日が一日しか取れない今の状況では、珍しいとされるメタルトータスを探し出すというのは不可能に近いというのも分かる。


「行きたい気持ちはあるが、休みが取れないから厳しいってのが答えだな。エイルはいつでも休みが取れるのか?」

「ああ! いつでも休みみたいなもんだしな!」

「そんな訳がないでしょう。私が全て尻ぬぐいをしているんですよ」

「という訳だから、俺はいつでも時間を空けられるぜ!」

「なら、もし二日間の休みが取れたら行こう。その時にまた連絡させたもらう」


 忙しくなってきたタイミングでもあるため、俺が二日間休むことはかなり厳しい状況。

 ただレスリーが許可してくれた場合は、ベニカル鉱山に行ってみたいという気持ちが強い。


「今すぐにってのは難しいのかよ! ……まぁ分かった! 少しの間は待つが、長過ぎたら俺一人で行っちゃうからな!」

「ああ。そうなったら一人で行ってくれて構わない」


 そんなベニカル鉱山の話で食事会は終わり、俺はエイルとマイケルと別れて宿屋へと戻った。

 これから色々とやらないといけないことがあるが、まずは『都影』のアジトに最近現れたという大男についてを調べてみてもいいかもしれない。



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