第316話 ワインの合う料理
着いたのは見るからにお洒落な店。
いつもの穴場的な場所ではなく、確実に高級店って感じの外観をしている。
お金はそれなりにあると言っても、ヨークウィッチを離れてからは一銭も稼いでいないし、手持ちで足りるのか不安になってきた。
そんな不安が伝わってしまったのか、スタナは俺に向かってニコッと微笑んできた。
「心配しなくても大丈夫ですよ! 今回は私の奢りですし、既にお金の方は払ってありますから!」
「……気を使わせて悪いな。手持ちはあるにはあるんだが、外観からして足りるのか不安になってしまった」
「ふふっ、反応的にそうだと思いました。戻ってきたお祝いとして、今回は私に奢らせてください!」
「お言葉に甘えて、今回は遠慮なく奢ってもらうことにする。……なんかいつも情けない」
「そんなことありませんよ? 私も何度か奢ってもらってますし、私は一方的に奢られるのが嫌なので対等な関係でいきましょう!」
スタナのありがたい提案に乗らせてもらい、俺は少し情けなさを感じつつ……お洒落なお店に入った。
店内はお洒落というよりかは、高級そうな内装であり、軽く見渡した限りでは提供されている料理も高価そうなものばかり。
そんな敷居の高さから、自分にできる限りの身だしなみは整えたつもりだが、完全に浮いている気がする。
お洒落で美人のスタナのお陰でなんとかなっているが、俺は身を縮ませるようにしながらスタナの後を追った。
「いらっしゃいませ。ただいまのお時間は完全予約制となっているのですが、ご予約の方はされておりますでしょうか?」
「はい。スタナ・レガットで予約しています」
「レガット様ですね。……ご予約の方確認できました。お席までご案内させて致します」
ウェイトレスについていき、通されたのは窓際の一番景色の良い席。
テーブルマナーとか一切分からないため、できれば個室が良かったのだが……恐らくこの席はこの店で一番良い席だろうから、奢られる分際で口を挟むことなど絶対にできない。
「全て“おまかせ”のコース料理でのご予約でお間違いないでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「ありがとうございます。それではまず食前酒として、こちらのシャンパーニュをどうぞ」
お洒落なウェイトレスはそう言うと、慣れた手つきでシャンパンをワイングラスへと注いで俺とスタナの前に置いた。
コース料理と聞き、以前スタナに紹介してもらった店に似た感じの料理かと思っていたが、どうやら酒が中心のお店らしい。
酒はあまり好きではないのだが、レスリー、アルフィ、セルジのお陰で嫌いではなくなっている。
シャンパンが注がれたワイングラスを手に取り、スタナと乾杯をしてからスタナを所作を真似ながら口に運んだ。
――香りが非常によく、味はフルーティで美味しいな。
口に入れた瞬間に香りが充満し、今まで飲んだ酒の中では一番の美味しさだ。
……ただ、酒特有の苦みが口に残り、手放しで美味しいとは思えないのが残念。
毒耐性には数えきれないほど助けられたが、酒を飲む時だけは鬱陶しく思ってしまう。
「美味しいお酒ですね! ここはワインと料理を楽しむお店でして、今回はお任せにしましたが選んだワインに合わせた料理を作ってくれるんです!」
「へぇー、そういうお店なのか。レスリーは泣いて喜びそうだが、俺以上に店の雰囲気と合わないのが可哀想だ」
「確かにレスリーさんは浮いてしまいそうですね! 一度は一緒に来てみたいのですが」
そんな会話をしながら、食前酒であるシャンパンを楽しんでいると、ウェイトレスが料理と共に新たなワイングラスを持ってきた。
今度は白ワインのようで、これまた高価そうなボトルに入ったワイン。
「こちらが前菜のホタテの生ハム巻き。それから旬野菜のポタージュとなります。こちらの白ワインと非常に合いますので是非ご一緒にお楽しみください」
「ありがとうございます」
ワインと共に料理が目の前に置かれ、その見た目の美しさに目を奪われる。
料理というより芸術に近い見た目で、食べるのが少しもったいないと思ってしまうほど。
「この間行った店の日替わりランチも良かったが、今回も凄いクオリティだな」
「ですね! 実は私もこのお店には初めてきたのですが、ジェイドさんと一緒に初めてを共有できて良かったです!」
笑顔のスタナに癒されつつ、俺は前菜を口に入れて味わった後に白ワインを香りを楽しみながら飲んだ。
シャンパンは美味しかったが、この白ワインも非常に美味しいし飲みやすい。
軽さがあってキレもある。
その上で香りも立っていて、魚介っぽい前菜にめちゃくちゃ合っているな。
パズルが組み合わさった時のような感動を覚えつつ、俺は前菜とスープをワインと一緒に楽しんだ。
嫌いではなくなった――ぐらいの評価だったお酒が好きになってしまいそうなほどであり、これから運ばれてくるであろうメイン料理が今から楽しみだ。
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