第229話 拠点
逃げるように『フロン』を発ってから一週間が経過した。
この一週間は見かけた街に寄り、情報を集めるという行動を取りながら帝都を目指して進んでいたのだが、成果としてはほぼゼロと言っても過言ではない。
唯一の成果といえば、スミーからのプレゼントが判明したくらいで、プレゼントの中身は高価な漢方薬だった。
疲労回復の効果もあるらしいが、メインは二日酔いしなくなるというもの。
酒飲みのスミーらしいプレゼントではあるが、そもそも酔うことがない俺にとっては必要がない。
ただせっかくのプレゼントだし、売ったりはせずにどこかで有効利用させてもらうつもりでいる。
とまぁ、一週間で手に入ったのは漢方薬の詳細ぐらいで、ある程度の大きな街でないと俺の求めている情報は集まらず、悪人もいないことから情報を無理やり聞き出すという行動を取ることができなかったのだ。
ただ帝都には近づけており、現在は帝都から二番目に近い街である『エアトック』という街に滞在している。
街の大きさもかなりのものがあり、帝都から近いということもあって情報が集まってくるはず。
クロのお膝元である帝都に向かうのは危険なため、この街を拠点にしようと今のところは考えている。
デウィットに質問したことの情報を重点的に集めつつ、色々な審議を確かめていきたい。
まずは俺の情報を帝都に送った『ブラッズカルト』のことを調べよう。
この街を拠点にするため、デウィットにやったような力づくでの情報集めができないのが難点。
まずは裏の人間との繋がりを持ちたいところだな。
潜り込むには下っ端として紛れ込むか、護衛として近づくのが一番簡単な方法。
ただ悪人たちに尻尾を振りたくない気持ちが強いし、それは最終手段としてしたい。
後は違法薬物を材料にして、取引を行うということで近づく方法もある。
実際には取引を行わずとも、交渉の場を設けることができれば御の字なんだが……デウィットの部屋から取った薬物は全て処分済み。
先のことを考えるなら、持っておくべきだったと今更ながら後悔している。
安宿の部屋の中で頭を必死に回転させたが、いい方法が思い浮かばない。
思えば暗殺者時代を含めても、同じ組織の連中以外には友好的に近づいたことなどなかったし、ヨークウィッチの良い人達と交流したこともあって、悪人への嫌悪感が強くなっている。
俺も負けず劣らずの悪人ではあるんだが、やはり悪人と友好的に接するというのは無理だな。
そうなってくると、今の俺が取れる行動は一つだけ。
悪人ではなく、悪人と対立する立場にある兵士と仲良くなることだ。
一つ挟むことによって、得られる情報の数も信ぴょう性も下がるのだが、悪人と仲良くしないという選択を取ったならこの選択しかない。
やることが決まったし、早速兵士が集まっている詰所にでも行ってみるか。
最低限の荷物だけを持ち、俺は安宿を出て街へと繰り出た。
ひとまず街を大まかに把握するという意味でも、ぐるりと一周歩くとしよう。
その際に詰所の位置と、兵士が多くいる場所の確認を行う。
それからヨークウィッチでいう、ピンク街や闇市のような場所も探したい。
パッと見では治安が良く見えるが、ヨークウィッチと比べて明らかに兵士の量が多いからな。
それに入門の際の身体検査も徹底的に行われていた。
遠目で見た限りでは、国境で行われている入国検査よりも厳しく取り締まっていたため、この街の治安が非常に悪い可能性を示唆している。
もちろん治安を良くするためのものの可能性もあるが、街の中を徘徊している兵士の数が多い事からそっちの可能性は低い。
すれ違う兵士たちを見ながらそんなことを考えつつ、俺はエアトックの街をぐるっと一周見て回った。
調べた限り、詰所の数は合計で十棟。
街を東西南北と中央の五つに分けた時に、詰所の数が一番多かったのは北の地区。
北側にだけ詰所が等間隔に五棟あり、人通りが然程多くないのにこの数の詰所があるということは、この北側のエリアが治安が悪いエリアと見ていいはず。
続いて多かったのは中央のエリアで三角形を描くように三棟建てられていたが、これは人が多い場所ということもあって納得の数。
後は東西南のエリアに一棟ずつあるって感じだったな。
各エリアに一棟だけと聞くと少なく感じるが、東西南北に一棟ずつあるだけでも十分に多い数。
ヨークウィッチや帝都と比べても、詰所が十棟もある方がおかしい。
帝都に近くであり、そこそこ栄えているという理由だけで一時の拠点にすることを決めたが、何やら裏がありそうな街に来ることができた。
デウィットが名前を挙げていた『バリオアンスロ』、『フォーシーズロード』の拠点がある可能性もあるし、何ならクロが関わっているであろう『モノトーン』の拠点がある可能性もある。
慎重に動くことは決めていたが、ここからはより慎重に動くことを決意した。
まずは一度宿屋に戻って暗くなるまで待機しよう。
情報を集めるために兵士と仲良くなると決めたが、隠密行動で北のエリアを調べることの方が優先的。
軽くぐるっと一周見て回っただけでは、特に怪しい場所も見当たらなかったからな。
悪人が動き出すのは夜と相場が決まっている。
昼間は治安が良く見えるこの街がどんな変貌を遂げるのか、少しだけワクワクしながら俺は宿屋に戻ったのだった。
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