第11話 初めての休日
昨日の帰りは貰った給料で、この街に来て初めての食料を購入。
肉串と硬いパン二つとテールスープを露店市の屋台で買い、計銅貨四枚の豪勢な食事を安宿で済ませた。
この一週間は配達先で貰ったものと、レスリーから軽食を奢ってもらったもので何とか凌いでいたため、この街にやってきて初めてのまともな食事と呼べるものだったな。
絶妙な満腹感に幸福を感じながら睡眠を取り、目覚めもバッチリで初めての休日の朝を迎えた。
共用のシャワーで軽く体を洗い流してから、早速俺は朝の街へと繰り出す。
給料として貰った銀貨十四枚の内、九枚は宿屋の店主に三十日分の宿泊費として支払ったため残りは銀貨五枚と銅貨三枚。
ということで、今回の休日で使える金は銀貨五枚と銅貨三枚ってところ。
正確には食費分に少しだけ残しておきたいが、必要なものが多いし自分でも分かるほど浮かれているため使ってしまいそうな感じがある。
とりあえず何をするのかも、どこに行くのかもまだ何も決まっていないが……今一番必要なのは服と靴。
それから武器も念のために持っておきたい。
今持っているのは錆びた短剣一本のみだが、流石にこの短剣一本じゃ心許ないからな。
この間のひったくり事件のようなものに巻き込まれるかもしれないし、積極的に戦闘を行うつもりはないが、護身用として一本ちゃんとした剣を持っておいて損はない。
まずは服と靴に向かい、それから余った金で良さそうな武器があれば買うって流れで動こうか。
歩きながら大雑把な今日の予定を組み、まずはピンク街からも近い街の西にある露店市へとやってきた。
露店市は格安で“露店”を貸し出している人がいて、その露店を借りて一般人が商品を売っている市場。
普通の店で買うよりも値段は安いのだが、質の部分に関しては大きく劣る物が多いというのが大きな特徴。
昨日食べた肉串やテールスープはこの露店市で買った物で、味も抜群に良かったからちゃんと目利きさえ出来れば質の良い物を安く買えるはず。
必死に声掛けして物を売ろうとしてくる売り子を無視しつつ、売られている物だけを見てひとまず露店市を一往復する。
目当ての服と靴だけを注視して歩いていたのだが、一店舗だけ非常に気になる店があった。
とりあえず全ての店を見てからと思ってスルーしたが、気になる店がその一店舗だけだったため戻って改めて訪ねることにした。
店主は俺以上のロン毛で、前髪のせいで表情が見えない暗い感じ。
他の店は体を乗り出して接客しているのに対し、ここの店主は店の前に俺が立ったのにも関わらず声掛けすらしてこない。
道具屋の店員として接客のイロハを教え込まれた俺としては、店主のなっていない接客に口を出したい気持ちになったが……。
あくまで露店は一般人が出している店だし、俺も人の接客に口を出せるほど接客が上達した訳ではない。
言葉をグッと呑み込んでから、俺の方から声を掛けることに決めた。
「ここの物を買いたいんだがいいか?」
「……ああ、値札は商品横に出してある。代金を支払ってから勝手に持っていってくれ」
やはり接客がなっていないが、これだけで成立するのが露店の良いところでもある。
さて、許可も貰ったことだし買わせてもらうとするか。
この店を見て良いと感じたのは、他の店と比べて質が圧倒的に高いこと。
元冒険者なのか、それとも現冒険者なのか分からないが、服も靴も全て普通の衣類よりも耐久性の高い――通称防具と呼ばれるものが並んでいた。
革の服に革の靴と防具の中では最低ランクの物ではあるが、防具屋で買ったらフルセット金貨三枚はするであろう品が、ここでは銀貨三枚で売られている。
中古なのも加味しても、特段汚れているわけでも破れている訳でもないしお買い得なのは間違いない。
残る購入するかどうかの点としては、道具屋で働くのに防具である必要があるかなのだが……。
露店で安くて質の悪い布や麻の服を買うよりも、防具である革の服の方が長持ちするだろうし、コストパフォーマンスを考えたら断然防具の方がいいはずだ。
「この革の服と革の靴を買わせてもらう。銀貨三枚はここに置いておく」
何も言わない店主に一方的にそう伝えてから、俺は銀貨三枚と引き換えに革の防具一式を手に入れた。
さて、使える金の大半を即座に使ってしまったが、まだ休日は始まったばかり。
一度宿屋に戻って購入した革の防具一式を置いてから、武器屋を中心に大通りを見て回るとしようか。
使える残りの金額的に武器を買うことはできないだろうが、次の給料を貰った時のために見て回る。
大通りは配達で既に何度も通ったけど、一人の客として大通りを見ていなかったからワクワクしつつ、ひとまずピンク街のボロ宿へと戻ったのだった。
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