番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その17
中から応答があったため、俺はフレーランの爺さんの家の中に入った。
一般の方の家だったらどうしようという不安があったのだが、家の中はちゃんと売り物で溢れており、既に五人ほど並べられている商品を見ながら思案している人達の姿があった。
「いらっしゃい。……お? 初めての顔じゃな」
「ここでも物を売っていると聞いて来たんだが、もしかして一見は買えなかったりするのか?」
「いいや、そんなことないぞい。遠慮なく、どんどん購入していってくれ」
「ありがとう。それなら遠慮なく買わせてもらう」
声を掛けてくれたフレーランの爺さんにお礼を伝えてから、俺は商品に目を落とす。
売られている品はどうやら骨董品が中心のようだ。
全体的に古いお皿や茶碗、湯飲みから、変な人形がズラリと並んでいる。
少し前までは骨董品に関しては一切分からなかったのだが、帝国で情報屋兼質屋を営んでいたケイティのお陰で少し詳しくなった。
物の見方は単純で、古ければ古いものの方が価値が高い。
それから重要なことがもう一つあり、魔力が練り込まれているものの価値も高いということ。
俺は魔力に注視しながら、目を凝らして一通りの商品を見る。
魔力の込められたものはザッと十点ほど。
俺はその中で最も魔力の込められていた変な土偶と、魔力が練り込まれている中で古いお皿、茶碗、湯飲みをそれぞれ一点ずつ手に取った。
ケイティのお陰で詳しくなったとはいっても、正直骨董品は専門外のため、いくらでも買っていいとは言われたが少数でいいだろう。
「この四点を売ってほしい」
「おー! あんた、良い目を持っているのう。今売られている物の中じゃ、一番価値の高いものじゃよ。ワシの店はどれも一律で売っているから、それだけ儲けることができたということじゃ」
「そうなのか? それなら良かった。でも、なんで爺さんは物の価値が分かっているのに安く売っているんだ?」
「そりゃ面白いからじゃ。ほれ、長いこと目を凝らして見ていたのに、あんたにあっさりと良い物を選ばれて睨んでおるぞ」
その言葉を聞き、俺は振り返ってみると、先に店の中にいた人達が俺を凝視していた。
睨んでいるという感じではないが、なんでそんなに早く選べたのか不思議がっている様子。
「こういう本気の競争が見たくて、良い物を売っているってことか。中々良い趣味だな」
「金がかかると本気になるからのう。目利きが難しくなるように、それっぽい安物もワシが見極めて混ぜておる。それを必死になって買う人を見るのが、ワシの一年に一回の楽しみなんじゃ」
フレーランの爺さんはウキウキで語っており、結構お年を召しているのだが、この様子ならあと十年は確実にフリーマーケットを開くことができそうな感じがする。
俺はフレーランの爺さんの代金である金貨四枚を手渡してから、フレーランの爺さんに挨拶をしてから家を後にした。
購入する際に価値の高いものだと教えてもらったし、滞在時間十五分ほどで非常に良い買い物ができた。
今日回る予定だったところは全て回り終えたし、後はゆっくりして明日に備えてもいいんだが……せっかくならば冒険者ギルドも見に行ってみようかな。
『白峰堂』やフレーランの爺さんの店のように、選別されたものだけが売っている訳ではないようだし、いくら時間があっても見終えることができなさそうな感じがある。
だったら、今日の内に少しでも見ておいた方がいいだろう。
そんな考えから、宿に戻る前に冒険者ギルドに向かうことにした。
王都の冒険者ギルドは一等地の端に建てられており、ヨークウィッチとは比べ物にならないほど大きな建物のためすぐに見つけることができた。
そして、そんな冒険者ギルドの前にはズラリと大量の商品が置かれているのだが――その雑すぎる置かれっぷりから、ゴミが並べられているようにしか見えない。
実際に買い取ったはいいものの売れずに残った素材や、冒険者が以前使用していた武器や防具等の扱いに困るものを叩き売りしているだけのようだし、冒険者ギルド側からしたらゴミといっても差し支えのないものだろう。
例のおっさんたちが喫茶店で話していた通り、ここから良いものを見つけるのは中々至難の業に思えてしまうな。
とりあえず少しでも情報を得るべく、俺は店番をやっているであろうギルド職員に声をかけてみることにした。
「すまないが、ちょっと質問してもいいか?」
「ふぇっ!? は、はい。な、なんでも聞いてください!」
ギルド職員に声をかけたのだが、何とも頼りない感じの女性職員。
年齢も若そうだし、まだ入りたての人なのかもしれない。
失礼ながら質問しても分からなそうだと思ってしまったため、周囲を見渡して他のギルド職員を探したのだが、店番をやらされているギルド職員は全て若い人ばかり。
冒険者ギルド自体は現在も通常通り営業しているため、業務に差支えがない若手職員がフリーマーケットの店番をやらされているようだ。
「……あ、あの質問というのはなんでしょうか?」
「あー、ここの商品の値段を教えてほしい。全品一律だったりするのか?」
「は、はい! 全ての商品が銀貨一枚となっております!」
「ありがとう。ちなみにだけど、どこにどんな商品が置かれているのかとかは教えてもらうことはできるか?」
「そ、倉庫にしまわれていたものを出しているだけなので、決まったものが決まった場所に置かれているということはない……はずです! ……あー、ただ、剣とか鎧とかの持ち運びにくいものは中に置かれたままだったりはしますね! どちらかといえば、冒険者に買ってほしいから――みたいなことを副ギルド長さんが言っていたような気がします!」
「教えてくれてありがとう。良い情報を貰えて助かった。大変だと思うけど、お仕事頑張ってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
何故か女性職員が笑顔でお礼を言ってから、ウキウキで仕事へと戻っていった。
まぁでも何気ない一言が嬉しいことは、道具屋の店主としてはよく分かる。
それにかなり有益な情報も貰えたし、女性職員には本当に感謝しかない。
どうやらギルド内にも物が売られているようであり、話を聞いた限りでは店前に出されているものの中から探すよりも、ギルド内に売られているものの方が俺の目的にあったものが見つかる可能性が高そう。
パッと見で気になったものを既に見つけてはいたものの、外の商品は一旦スルーし、冒険者ギルド内のものを購入するとしようか。
そんな考えから、俺は人混みを避けつつ冒険者ギルドの中に入ったのだった。
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私の別作品の『辺境の村の英雄、42歳にして初めて村を出る』の第1巻が、本日発売となっております!
大まかな内容なのですが……辺境の村の英雄だった主人公が齢42歳にして村を出て、人々と交流しながらその力を世界に轟かすお話となっています。
井の中の蛙大海を知らずという言葉がございますが、本作はその真逆。
井の中にいた龍の存在を大海が知ることになる――そんなお話でございます!
少しでも気になった方は、どうか何卒ご購入頂けたら幸いです!
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