第14話 サンタンデールの街
1つめの街、サンタンデールに着いた。
すでにロイとロブの親子も王都に着いて教会で保護されている。ロイは市場で仕事を見つけた。ロイが働いている間、息子のロブは教会に預けられている。
親子と別れた後、ウィルコの希望でいったん結界に戻った。
労働者が安心して働けるよう昼間は教会で子供を預かり読み書きと計算を教えることと、困窮した人々を助けるよう、改めて全土の教会に神託を下したのだ。
ウィルコの成長にルイスが感動していた。
いやいや!ウィルコの実績ってほぼゼロだし!ロイとロブが王都で困らないようにしてあげたいってメソメソしただけだし。
国民に読み書きを教える案は初期からあった。教育の大切さについて私に語らせたら長くなるけど教育は大切。教育は読み書きだけじゃ無いよ芸術も含むからね。幅広い意味で教育の大切さを子供の頃から言い聞かされた私を馬鹿にしてもらっちゃいけません。
お金は盗まれて失うことがあるけど教育とか知識とか技術とか学歴とかは消えて無くならないし、いくつになっても自分を助けてくれる。どんな時代でもね。
私の母方の曽祖母は九州のとある藩の城代家老の孫娘だったらしい。これが無茶苦茶、頭が良くて勉強が出来たらしいんだけど女に学問は不要。ただ余りにも出来が良いので、この子が男だったら…って評判だったらしい。
どういう経緯か分からないけど明治後期に東京で曽祖父と結婚したらしい。曽祖父は九州とは縁もゆかりも無い江戸っ子だったらしい。その子供である祖母と祖母の兄弟姉妹は望むまま教育を受けられたらしい。祖母たちは性別が理由で大学進学や留学を諦めずに済んだ。
学歴や教育や技術があったので理不尽な結婚を我慢する必要が無くて自立出来たんだよね。
曽祖母の方針に則って望むまま教育を受けたのが私の祖母だ。あの時代に猛勉強の末にアメリカ留学を果たした。本人は外交官を目指していたらしいが女性だという理由で門前払いだったらしい。そりゃそーだろうなと思うが曽祖母も祖母も怒り心頭だったらしい。そのエピソードを子供の頃から何度も繰り返し言い聞かされたが当、時は良く理解できなかった。
そんな祖母は留学先のアメリカで出会った船乗りの祖父と大恋愛の末に結婚した。猛勉強とか大恋愛とか何かと極端なのが祖母の特徴だ。祖父は高身長で足の長いスタイル抜群の堀の深いイケメンだった。祖母も濃かった。濃い顔が凝縮された私も濃い。
祖父母は夫婦で貿易商としてそれなりの成功を納めた。
そんな祖父母の娘である私の母は特に勉強家でもなかった。母は大学教授の父と結ばれた専業主婦だったが、父の家系は母方と違って大分窮屈だったようだ…ようだというか私自身が窮屈過ぎて逃げた。あっちの親戚も実家も嫌い。
自由を求めて念願だった音楽に関わる仕事についたが、業界の没落で自分も没落した。そして親より早く死んだ、マジごめん。
祖母の言い聞かせが染み付いた私なので奨学金とか義務教育とかは、ちゃんと考えてた。ただそれよりも急ぐ案件があっただけなんだ。飢えて死んでしまったら教育どころじゃないもん。
結界に戻ってロイとロブが可哀想って泣くウィルコに「具体的な案は? それに視野が狭すぎ。ロイとロブだけじゃなくて、もっと広い視野を持って」と詰め寄る私の襟を後ろから狼のルイスが咥えて持ち上げた。まさかの子犬扱いだった。
モニカも、ぶら下げられた私に「これでもルイスなりに成長しているのよ」ってウィルコを庇う。
ぶら下げられながら、もともとの出来がアレだと成果に対するハードルが低くていいですね!と捻くれたことを考えていてすみません。
まだまだ立て直しは始まったばかりだし、私が来世で勝ち組に生まれるためにやることは山積みです。
そんなことを考えていたらサンタンデールの宿に着いた。
「とりあえず6泊頼む、4人で1部屋だ」
結界に帰って眠るから1部屋で充分なのだ。
「サンタンデールへようこそ!この辺りはトマトが美味いんだ。うちの宿はトマトを使った料理が自慢だから楽しみにしててくれ」
少し南に移動しただけでガラリと気候が変わって、この地方は一年中乾いて暑い。トマトの栽培に適しているため一年中トマトを栽培している。
産地の完熟トマトは王都に出荷されているトマトより美味しいだろう、楽しみ!
「ねえ街を見て回ろうよ」
人型のルイスとモニカとウィルコと一緒に市場に向かった。ウィルコが私と手を繋ぎたがったが、もちろん拒否した。
「お野菜いっぱい売ってるね!」
いろんな種類のトマトが売られている、イタリアの市場のようで楽しい。
「このトマト、面白い形!デコボコしてる」
「それは牛の心臓って名前のトマトだよ、酸味と旨味があってカットしても水分があまり出ないからサラダで食べるのがオススメだよ」
「へえー、面白いね!」
「こっちはチェリートマト、甘味が強くて酸味も適度にあって濃厚だから生でも煮込んでも美味しいよ。こっちの楕円形はサンマルって品種でね、肉厚で食べ応えがあるよ」
「ねえモニカ、全部食べてみたい!」
子供っぽくねだって沢山買ってもらった。
「市場って楽しいね、陶器とか服も売ってるし、どれも地域ごとに特徴があって、いつまででも見ていられるね」
「ああ、だがそろそろ宿で飯だな」
王都の居酒屋でがっかりしたルイスが調べまくった料理の美味しい宿だ。美味しいといいな。
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