第183話 メープルシロップの試食

「トーマスさん、パーシーさん、これをどうぞ」


4種類のメープルシロップを小皿で出した。


「メープルシロップを採取できるのは春先の限られた期間なんだけど、樹液の採取時期によって色と風味が違うんだ」


 はしゃいでいたウィルコが真面目に説明する。


「採取時期が初期の頃は色が薄くて繊細な風味で、時期が進むに従って濃い色と強い風味になるんだ。薄い方から試食してみて」


 トーマスさんとパーシーさんが小皿のスプーンから手の甲にシロップを垂らして真剣に味をみる。


「本当だ、かなりコクがあるな」

「人によって好みが分かれそうだね」


「赤ちゃんにハチミツや黒糖を与えると危険だけどメープルシロップは、ボツリヌス菌の心配がないから離乳食が始まった頃にあげても問題ないんだよ」


「赤ん坊のいる家庭に喜ばれそうだな!」

トーマスさんの頭の中で販路が広がっているようだ。


「メープルシロップをさらに煮詰めて撹拌するとバター状のメープルスプレッドに、もっと煮詰めて水分を飛ばすと、メープルシュガーになるんだ。これはメープルスプレッド、パンにつけてみて」


「これは美味しいね!」

「パーシーさんはメープルスプレッドが好き?こっちはメープルシュガーだよ」


「シロップもシュガーも使い勝手が良さそうだな」

 全部を試食したトーマスさんは販売先について検討を始めているようだ。



「この間は黒糖プリンを試食してもらったでしょう? 今日も少しだけ作ってみたんだ」

「プリンか?」

「ううん、今日はメープルマフィンとメープルファッジ。もちろん黒糖をメープルシロップたメープルシュガーに置き換えればプリンも作れるよ」


 メープルファッジはメープルシロップとバターと生クリームで出来ている。高カロリーだけど美味しくて悩ましいスイーツだ。カロリーは美味しさのバロメーターだもんね。


 マフィンはトップにナッツを散らしたプレーンなメープルマフィン。


「どちらも牛乳やバターを使っているから王都の住民が牛乳を受け入れるきっかけになるかもね」



「すごいよ…これは麻薬みたいに流行るよ」


 試食したパーシーさんが呆然とつぶやくとウィルコの喜びが限界突破した。


 その横で頭を抱えているのはトーマスさんだ。何を悩んでいるのかは聞かなくても分かる。


「トーマスさん、お土産をどうぞ」

 メープルファッジとマフィンとメープルスプレッドを包んで渡すとトーマスさんが両手で私の手を包み込む。


「カレンちゃんは救いの神だ。ありがとう、これで家に帰れる」



 トーマスさんの奥さん、甘いものが好きだもんね。トーマスさんの家の平和が守られてよかったよ。

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