第89話 マリアさんのコシード
翌朝、早い時間に商業組合でケチャップを仕入れてサンタンデールを出発した。もちろん次の目的地はクエンカだが、人目が無くなったところで転移した。夏の南部に長居は無用だ。
「いらっしゃい、また来てくれて嬉しいよ!」
今回もマリアさんの宿に宿泊する。もちろん4人で一部屋だ。
「鍋なんかを仕入れに、以前よりも商人が来るようになったんだよ」
「ガンホーたちは腕が良いからな」
「砂漠地方の遊牧民まで来たよ、折り畳みの鍋なんかを広めたのは、あんたたちだろ?」
シャウエンの商人だ。あっさりしたタジン鍋のご飯がルイスとモニカの好みに合わず、2度と行けなさそうな憧れのシャウエン…。
遊牧民の間でメスティンがブームらしい。コンパクトに持ち運べるから遊牧民の生活様式に合ってる調理器具だよね。
「俺たちは暑さに弱くてな…昼間は部屋に篭る。明日の早朝にガンホーたちに会いたい」
「夜でもいいわ、日が落ちたら元気になるから。それよりも夜はアレを食べたいの。マリアさんのコシードを心の支えにここまで来たのよ」
夏バテしているとは思えない食欲だがマリアさんは喜んでくれた。涼しい時間になったら食べると伝えて部屋に入り、すぐに結界に戻った。
「夜までここでゆっくりしようね、この後のことで相談したいんだけど…」
「シャウエンには行かないぞ」
…残念。
「近くにフルーツの産地で有名な村があったよね」
「ムルシア村だね、オレンジやブドウ、イチジク、アンズ、柿、サクランボ、マルメロなんかが多いかな。柑橘類はいろいろ作ってるみたいだね」
ウィルコが詳しく説明してくれた。
「ドライフルーツを作ってもらいたいなって思ってるんだ」
「いいんじゃないかしら?保存が効くし甘いものは貴重だから」
モニカが賛成してくれた。
「でも暑いんだよね…」
ルイスとモニカにはきつい気候だ。
「僕が中心に動くよ」
「そうだな、今のウィルコなら任せられる」
「私も賛成よ」
4人でドライフルーツを天日干しで作る動画をみた。ルイスもモニカもウィルコも一度みたらマスターしちゃうんだから神様補正ってズルい。
ゆるゆると過ごしていたらクエンカが夜になったので転移で戻って食堂に向かった。
「いらっしゃい!鍋ごと取っておいたよ」
私たちが食堂に姿を見せるとマリアさんがコシードの鍋を運んできてくれた。ルイスとモニカの顔が輝いている。
「カレンちゃんたちにはマルミタコね、よく煮込んであるよ」
「ありがとうマリアさん!」
マルミタコはマグロとジャガイモのトマト煮込みで、地球ではバスク地方やスペインのカンタブリア州で食べられている料理だ。
マリアさんのレシピはニンニク、タマネギ、ピーマン、完熟トマト、ジャガイモとマグロを柔らかくなるまで煮て塩とチリパウダーで味付けしている。マグロの筋が多い部分を使っているけどマグロの筋は加熱すると柔らかくなって美味しいんだよね、コラーゲンでプルプルしてる。
「マルミタコ美味しい〜」
「マリアさんのコシード、最高だわ」
4人でマリアさんの料理を夢中で平らげた。
「きれいに食べてくれて嬉しいよ」
コシードのお鍋が空っぽだ。
「どんなに具合が悪くてもマリアさんのコシードは別腹よ」
「今日も美味かった」
モニカもルイスもご機嫌だ。
「みんなが休んでいる間にガンホー達と話したんだよ、もしも夜のうちに仕入れをしたいなら鍛治組合に来てくれって」
「いいのか?」
「夜なら助かるわ」
さっそく鍛治組合に向かうとガンホーさん達がいた。
「夏バテだって?」
「確かに顔色が悪いな」
「マリアさんの料理で回復しているところよ」
「鍋は売れているか?」
「ああ砂漠地方の遊牧民が定期的にやってきてはあるだけ買っていく、彼らのリクエストで大きさを変えて作ったり、いろいろ試して新しいものを作ったりしている」
クエンカ独自の鍛治文化が生まれつつあるみたい。これは楽しみだね。
「それは良かった」
「あそこは食事がヘルシー過ぎて合わないから、もう行かないのよ」
…決定なのか。
ガンホーさん達からの仕入れを夜のうちに済ませて翌朝早くクエンカを発った。村が見えなくなったらすぐに転移で結界に戻ったのでルイスとモニカも元気だ。
次はムルシア村に行くよ!
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