第88話 夏のサンタンデールとオムライス
さっそく南部に向かった。まずはサンタンデールだ。今回もリカルドさんの宿に泊まる。
「皆さん、お久しぶりです!」
一緒にケチャップを作った宿の皆さんが暖かく出迎えてくれた。
「ケチャップを仕入れに来てくれる商人が増えましてね、おかげさまで村全体が活気にあふれていますよ」
ケチャップを作っているトマト農家や居酒屋、食堂、商人を泊める宿、村全体に経済効果があるみたい。
「それはよかった、今回も4人部屋で頼む。2泊だ」
「食事はどうされますか?」
「実は私たち夏バテで…日が落ちるまで部屋で休んで、夜の体調を見ながら決めたいの」
「この辺りは暑さが厳しいので体調を崩す旅の方も少なくないのですよ、軽い物もご用意できますから…」
「ありがとう」
ルイスとモニカが本当に苦しそうだ。早く部屋に入ろう。…部屋に入った途端に結界に転移した。
「暑かったわ…」
「午後3時のサンタンデールは地獄だな」
ウィルコが冷えた麦茶を配るとルイスとモニカが一気に飲み干した。
「ごめんね、やっぱり夏の間は南部に行かない方がいいかも…」
「いや気にするな」
「そうよ必要なことなんだから」
改めて相談して現地では午前と夕方以降しか活動しないと決めた。
結界で涼んでいるうちにルイスとモニカが元気を取り戻したが晩ごはんの準備はウィルコと2人ですることにした。調理は火を使うから涼んでてくれ。
「あのね、今日はオムライスが食べたいんだけど、いいかな?」
「オムライスって何?」
「チキンライスを薄焼き卵で包んだものだよ、基本はこんな感じ」
タブレットでオーソドックスなオムライスの画像を見せる。
「いいじゃないか!」
「チキンは多めでね」
ルイスとモニカも賛成してくれたのでリカルドさんの宿で買ったケチャップを使うよ!ケチャップといえばオムライスだよね。
「ねえウィルコ、何種類か作ろうよ」
「種類があるの?」
ウィルコにオムライス専門店のメニュー画像を見せると張り切り出した。
「お肉はもも肉ね、黄色い脂肪や筋を丁寧に取り除いて一口大に、玉ネギとピーマンはみじん切り」
ピーマンを入れない方が一般的かもしれないけどケチャップライスとピーマンと卵の組み合わせが好きなので私は入れる。彩りも良くなるし。
「フライパンを熱してバターが溶けたら、もも肉と玉ねぎを炒める。もも肉の色が変わって玉ネギが透き通ったら塩胡椒を振って、ご飯を加える。全体に火が通ったらご飯と具をフライパンの端に寄せて空いたところにケチャップを入れる」
この一手間でケチャップの水分を飛ばしてチキンライスが水っぽくなるのを防いでいるつもりだ。
「水気を飛ばしたケチャップと具とご飯を混ぜて塩胡椒で味を整えておく。次は卵ね、1人分ずつ作るよ。ボールに卵を割り入れて牛乳と塩少々を加えて溶きほぐす」
ここで新しいフライパンを取り出した。
「油をひいて強めの中火でフライパンを温めたら卵液を一度に加えてフライパン全体に広げて卵が半熟状になったら火を止める」
お茶碗にチキンライスを盛って卵のフライパンに戻る。
「フライパンの半分にチキンライスをオムライスっぽく乗せたら火をつける。この時は弱火ね。そしたら反対側から卵をチキンライスにかぶせる。フライパンのフチを利用して形を整えてお皿に滑らせるように移す」
形を失敗しても大丈夫。オムライスをペーパータオルで包んでラグビーボールの形に整えれば美しいオムライスの出来上がりだ。
「わあ、きれいだねえ」
「ウィルコならすぐにプロみたいに作れるようになるよ、小さめにたくさん作って食べる直前までアイテムボックスに入れておこう」
ウィルコと手分けしてチキンライスの半分を包んだ。
「次はふわふわ卵のオムライスね」
「上にオムレツを乗せたみたいなやつだね」
「そう、別名タンポポオムライスだよ!」
『タンポポ』というタイトルの映画で一躍有名になったオムライスだ。チキンライスの上にぽってりと乗ったオムレツにナイフを入れるとトロトロの卵がチキンライスを覆うように広がる私の大好物だ。
ドレスドオムライスも好きだが作るときにフライパンをくるくる回すのが大変なので今度ウィルコにやってもらおう。子供の身体ではうまく出来ない。
「これも1人分ずつ作るよ。卵を溶いて塩胡椒。フライパンにバターを溶かして、卵を一気に流し入れたらかき混ぜて、固まらないうちに火から離してフライパンのフチとフライ返しを使って卵をとじる。火から離して形を整えたら火にかけて手早く上下を返す…を繰り返して中がトロトロの半熟オムレツを作る」
プロの動画を見るとフライパンの柄をトントン叩いてオムレツの形を作っているけど私には無理なのでフライパンのフチとフライ返しを使って整える。
「チキンライスの上にオムレツを滑らせて出来上がり」
これもウィルコと手分けして作ってアイテムボックスに収納した。
「次はソースだよね、いろいろ作りたいのがあるよ」
オムライス専門店のメニュー写真を見てやる気になったウィルコに任せることにした。
「チキンとほうれん草のクリームソースはクリームシチューを少し煮詰めた感じでいいかな?」
「うん、正解だと思う!絶対に合うよ」
「ベーコンとコーンのチーズクリームソースも作るよ」
ウィルコは手際が良い。ホワイトソースを作ってから2つに分けて、それぞれにチキンとほうれん草、ベーコンとコーンとチーズを加えて同時に2つのソースを仕上げた。
ハヤシソースとデミソースはレトルトを利用した。なぜならルイス狼とモニカ狼が真後ろで見ていたから。今すぐに食べさせろという圧力に負けた。
「ご飯にしようか」
アイテムボックスから小さく作った基本のオムライスとタンポポオムライスを全部出して、ウィルコのソースと温めたレトルトのソースを並べた。
「作り置きのトンカツとコロッケとソーセージとハンバーグも出しておくね、好きな組み合わせで食べてね」
「カレンはいい子ね」
「ハンバーグは間違いなく合うぞ」
ルイスとモニカがご機嫌だ。たくさん食べて夏バテを吹き飛ばしてくれ。
私とウィルコは部屋で食べると言ってリカルドさんに夏野菜の煮込みなどあっさりした料理を用意してもらって結界に持ち帰った。これが今日の副菜だ。部屋に篭りっきりでご飯も食べないとリカルドさんに心配かけちゃうからね。ルイスとモニカには無理に勧めないけど美味しい煮込み料理だ。今日食べない分は時間経過無しのアイテムボックスに入れておこう。
私はタンポポオムライスにデミソースをかけて小さなハンバーグを乗せた。オムレツを割るとチキンライスを黄色い卵が覆う。ハヤシソースと卵の黄色と赤いチキンライスの組み合わせが美味しそうだ。
「いただきまーす」
── やっぱり美味しい…オムライスはふわふわがいいね。基本のオムライスも美味しいけどふわふわ最高…。
「この卵がペラペラした方にクリームソースをかけてハンバーグを乗せるのが1番上手くないか?」
「ルイスったら相変わらずクリームソースが好きね。私はふわふわにトンカツとハヤシソースが1番だと思うわ」
「トンカツとハヤシも合うよな…」
「でもね…実はコロッケを乗せてデミソースをかけたのも美味しいのよ…」
「ああ、その組み合わせも最高だよな」
1番美味しい組み合わせを決められず、ルイスとモニカの議論は迷宮入りした。
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