第87話 結界でコロッケ
結界でイクラとキャビアを堪能した後、ピーテル村から近い地域にピーテル村の石炭を売りに行った。これらの村がピーテル村に石炭を仕入れに行くことを期待してのことだが、早くも冬に向けて仕入れに出た商人がいるようだ。村同士の交流に期待しつつ見守りたい。
私たちは王都に帰り、北西部で仕入れたハチミツやハニーワインなどを販売したら甘味に飢えていた王都の住民の間で瞬く間に人気の商品となった。
すでにチーズはグルメな住民や酒好きの間で評判となっており、冬が来る前に王都の商人たちがチーズやハチミツやハニーワインの産地に仕入れに向かったことが分かった。
王都に戻ってきたので焼きたてピッツァの販売を再開したら常連客が戻ってきたし、北部出身の住民がチーズを求めてやってきたり、チーズが市民権を得てきたと実感する。
ピッツァの他にハニーケチャップで焼いた豚肉を挟んだサンドウィッチやハニーマスタード・チキンのサンドウィッチもメニューに加えて、サンタンデールのケチャップやバンスカー村のハニーケチャップのタレも一緒に売り出して人気は上々だ。
トラカイ村のヨナスさんに作ってもらったハンギング・ドライネットを王都の市場の野菜商人に少しだけ販売した。売れ残りを干し野菜にする方法をすすめたら試してみるとのことだった。干し野菜も徐々に広まるといいな。
ヨナスさんといえば、王都に戻ってからヨナスさんから買った布でモニカとお揃いの服を仕立ててもらってお揃いで着ていたら、ダッチオーブンやチーズのお披露目販売でもお世話になったトーマスさんが仕入れに旅立った。トラカイ村の亜麻が王都で人気になるのも時間の問題かも。
村中で広く亜麻を生産しているから目利きのトーマスさんが何をどれだけ仕入れてくるか楽しみだな。
「北西部に向かった商人は30〜40人くらい確認出来たよ。チーズやハチミツを求めて出かけているけど、乾燥パスタとか長期保存できる食料を持って行っているから北部の冬支度も安心だね」
「国中で燻製やオイル漬けも盛んに行われるようになってるよ。あと北東部のピーテル村へ石炭の買い付けに行く村もいくつか確認できたよ」
「冬の間にも一度は北部を回りたいね、特に北東部。資源が豊富なピーテル村に鍛治を広めたいけど、まずは生活を安定させないと」
「うん」
「選挙はどう?」
「立候補者は増えていないよ、北部のソニアさんと南部のユセフさん。どちらも人気が高くて、相変わらず国中で議論されているよ」
「投票日が楽しみだね」
「選挙違反について、こまめに神託を出して行こうね」
「分かった」
国中で議論が活発になっているので、中には熱くなりすぎる支持者も出てきている。そんな人たちの頭を定期的に冷やすために選挙の公正さについて神託を出しているのだ。
私たちは候補者たちに会わないようにしているし、国民と選挙についての議論もしない。なぜなら私たちが影響を与えることがあってはならないから。この世界のことは、この世界の住人が考えて決めるのだ。
「まだ8月だし暑いけど南部も回りたいな、ルイスとモニカは大丈夫かな」
「昼間は外に出たく無いな」
「日が落ちてからなら良いわ」
毛皮、モフモフだもんね…。人型でも暑さに弱いらしい。
結界は適温なので快適だ。南部を回っている間も昼間は宿の部屋に篭っていると見せかけて結界で過ごそう。
「そろそろ肉の準備を始めた方が良く無いか?」
打ち合わせがひと段落したところでルイスが切り出す。肉じゃなくて晩ごはんね。
「今日はコロッケが食べたいんだよねえ」
「コロッケって何?」
「ホクホクのジャガイモに味付けした挽肉や玉ネギのみじん切りを混ぜて丸めて油で揚げたフライだよ。揚げたてをソースで食べると、サクッとホクホクっと美味しいんだよねえ。コロッケパンにしても最高なんだ」
「肉を揚げるのか、いいな…」
「それを作りましょう」
「じゃあみんなで作ろう、ジャガイモは男爵芋を買うね、火を通すとホクホクで美味しい品種なんだ」
インターネット通販でジャガイモや中濃ソースなどを買った。
「ジャガイモは皮をむいて4等分にカット、玉ネギはみじん切りね」
ルイスとモニカが大量にカットする。2人ともお腹が空いていたのかな。
「お鍋にジャガイモとかぶるくらいの水と塩を入れて火にかける。煮立ったら火を弱めて柔らかくなるまで茹でる。柔らかくなったら潰すんだけど、潰し方は好みでね。私はクリーミーなのが好きだからマッシャーで滑らかにしているんだ」
「それは任せろ、滑らかにしてやる」
ルイスが受け持ってくれた。
「ジャガイモを茹でている間にフライパンに油をひいて玉ネギを炒める。玉ネギが透き通ってきたらひき肉を加えて炒める。ひき肉に火が通ったら塩胡椒とナツメグで味付け。ジャガイモを塩茹でしているから、ここでは塩は薄めにね」
「こんなものかしら?」
大量のひき肉をモニカが炒めてくれた。
「うん、いい感じ。そしたら潰したジャガイモと炒めたひき肉を混ぜるよ」
モニカが力強く混ぜた。力持ちだな。
「美味しそうに混ざったね、そしたら小判型に成形します」
大量だが4人でやると早い。
「そうしたら小麦粉をまぶして、次に溶き卵、パン粉の順に衣をつけます。ここでいったん冷蔵庫で冷やすよ」
「どうして?」
「揚げる時に衣が剥がれにくくなるんだって。その間にキャベツを刻んでご飯を炊こうよ」
これも4人でやると早い。ご飯を炊いて千切りキャベツ、トマトはくし切り。あとはだし巻き卵とお味噌汁を作った。だし巻き卵には大根おろしもたっぷり添えた。ルイスとモニカとウィルコに、もう一品は何がいいか聞いたらアイテムボックスからハンバーグも出すことになった。
「じゃあ揚げていくよ!濃いめのキツネ色になったら完成!」
千切りキャベツに揚げたてコロッケを乗せてトマトを添えた。
「ご飯にしようか」
揚げたてコロッケにだし巻き卵と炊きたてご飯と野菜たっぷり具沢山お味噌汁。これだけで私には充分ごちそうだ。3人にはハンバーグもね。
「いただきまーす」
私はコロッケに中濃ソースをかけて…揚げたては美味しい…。
「美味いな!」
「衣をつけて揚げると何でも美味しくなるんじゃないかしら?」
「ウィルコのだし巻き卵も美味しいよ!」
「出汁の取り方も焼き方も丁寧だからな」
「ウィルコの成長ぶりは見事ね」
「みんなのおかげだよ」
久しぶりの揚げたてコロッケは美味しかった。
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