第172話 黒糖プリン
「デザートをどうぞ」
ウィルコがよく冷えた黒糖プリンを配る。
トーマスさんたちは乳製品を抵抗なく食べてくれるから安心して出せる。
「これは何かしら?」
「プリンだよ。牛乳を使っているけど二人とも抵抗はないよね?」
「俺たちは牛乳を使ったレシピが美味いことを知っているからな」
「いただくわ」
2人がプリンをすくって口に運ぶ。
「美味しいわ…」
「なんだ、この滑らかな食感と甘さは!」
「容器の底のほろ苦いカラメルと一緒に食べると美味しいよ」
私の言葉に素直に従う2人。
「ほろ苦いソースと一緒に食べるとさらに美味い」
「苦いだけじゃないわ、甘いわ」
企みを隠しきれないルイスとモニカの目つきがさらに怪しくなる。
「俺たちはサンポル島と、その周辺で黒糖を見つけた」
ルイスが黒糖の壺を取り出すと2人の目が見開かれた。
モニカが小さなトングで小皿に黒糖を取り出す。
「食べてみてちょうだい」
信じられないという表情で小皿の黒糖をかじる。
「甘いわ」
「砂糖だ…」
「サン・ポル島やその周辺では雑草扱いだったがそこら中に野生のサトウキビが生えていた」
「私たちが協力して黒糖の生産に成功したのよ」
「南部は他にもサトウキビが自生している地域があるからビジネスチャンスだよ」
「お前らはアホか!そんなに貴重な情報をホイホイと
トーマスさんが噴火した。
「俺たちは暑さに弱いんだ。暑い季節に南部へは行けないからトーマスたちに頼みたい」
「それにトーマスは利益を独占しないでしょう?」
「手助けしたい商人がまだまだいるって言ってたよね?」
「ぐぬぬぬぬ」
見破られていたかと悔しそうなトーマスさん。いやいや分かりやすいってば!
「エミリーさん?」
「どうしたの?」
トーマスさんの隣で奥さんのエミリーさんが頭を抱えている。
「困るわ…トラカイ村のリネンを楽しみに冬を過ごしていたのに、このプリンてなんなの?美味しすぎるじゃない!困るわ!北と南に同時には行けないのよ!」
エミリーさんが壊れた。
「プリンのおかわりは?」
「いただくわ!」
ウィルコが勧めるとエミリーさんはやけ食いのように黒糖プリンを食べた。
「美味しいわ。いままで食べたものの中で一番美味しい。…私、死ぬ前は最後にプリンをお腹いっぱい食べてから死ぬわ」
エミリーさんの最後の晩餐が決まった。
「パーシーだ」
エミリーさんの横で考え込んでいたトーマスさんがぼそりとつぶやいた。
「パーシーさんてトーマスさんの商会の従業員の?」
前回、トーマスさんはパーシーさん夫婦と一緒にトラカイ村へ仕入れに行っていた。
「資金が貯まったらのれん分けしてやりたいと考えてはいたんだ。見過ごせない商売仲間が多すぎてパーシーのための資金が貯められなかった」
「トーマスが商売仲間を助けたいと動き出した時に離れていく人も多かったの。苦しい時代だったからみんな自分のことで精一杯なのは当然の意見なんだけど、パーシーはトーマスの取り組みに共感してくれて…」
エミリーさんも肯いている。
トーマスさんたちは北部のトラカイ村へ、パーシーさんたちがサン・ポル島や南部へ向かうことになった。
パーシーさんは農家の三男で実家を継ぐことが出来ないため、トーマスさんの商会で働くようになったとかで農業にも詳しい。
私たちが持ち帰ったサトウキビを渡して、栽培や黒糖への加工について覚えてもらったら南部へ向かってもらうことになった。
ちなみにトーマスさんはいつも青い服でパーシーさんは緑の服を着ている。機関車トーマス…と呼びそうになるから困る。
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