第99話 転売屋の出所
王都のネズミ対策で販売した毒餌や粘着シートや罠を高額転売しようとした転売屋がそろそろ出所する。
犯罪奴隷といっても転売は殺人などと比べて軽微な犯罪だし初犯なので服役期間は短い。
「出所前の研修?」
「うん、新しい世界について知っている人たちだけど一通り受けてもらおうと思う」
「そうね、一通り手順を踏むのは賛成よ」
犯罪者は服役期間を終えただけでは解放されない。服役期間を満了し、さらに犯罪指数がゼロになったら犯罪歴がクリアされ、労働への対価を渡されて犯罪奴隷から解放、一般市民に戻ることができる。
今回のネズミ駆除用品の転売屋は服役期間を満了した上に転売の罪について罪であると認識しているから釈放される。
生活必需品は誰でも買える価格でないといけない。それを高額転売して消費者に不利益を与えるのは犯罪なのだ。
出所する者達は個室で服役中の労働に対する対価をゴーレムから手渡された後、1室に集められて研修だ。新しい世界について、選挙について、現在の国の流行についてなどを改めて知らせる。
服役中も新しい世界についての研修時間を定期的に設けている。出所直前にいろいろ知らされても困るだろうし、服役中に新しい世界について知ることは自分の犯した犯罪について考えるきっかけにもなるから。
一部の犯罪者を除いて…貴族と王族は更生の見込みがない。相変わらず一般人を殺すことが何故悪いのかって暴れてゴーレムに取り押さえられたりしている。
出所するのは7人。元の生活に戻るのも行政で用意した仕事に就くのも自由。行政の用意した仕事の中にはハルミレ石鹸の販売もある。仕事は公務員として役所に勤務して役所でハルミレ石鹸を販売するだけじゃない。
清潔にすることが伝染病や皮膚病の発生を激減させることを市民に啓蒙するのも仕事だし、誰でも買える値段でなければいけないから転売禁止だと市民に知らせ、違反を取り締まるのも仕事だ。
いつまでも過去の罪が付きまとうようで辛いだろうから、これを選ぶ人はいなさそうだと思ったら3人が選んだ。自分たちだからこそ出来ることがあるからって。もともと真面目な人たちだったんだね。
真面目な人はメンタルの病も気をつけてほしい。こまめにステータスをチェックして不調が表示されたら医療機関で受診するようゴーレムが念を押した。
服役中の受刑者のケアをするゴーレムたちは最近お母さんぽい。性別は無いはずなんだけどな。
「このまま出所しても穏やかに生きて行けそうな人たちだね」
「家族の生活のために転売を思いついたって人たちだから出所を待っていた家族も嬉しそうだったね」
ウィルコの力でテレビにダイジェスト映像を流してもらってみんなで見た感想だ。
「年が明けたら犯罪組織に巻き込まれる形で軽微な犯罪に手を染めた者たちの出所が始まるわね」
「その人たちも出所後は真っ当にやって行けると思うよ。止むを得ず…環境に負けたとか脅迫されて仕方なく…って人たちだから、やり直したい意欲は人一倍だよ」
「収監している施設での無料教育を熱心に受けている人も多いよな。彼らのやり直したい気持ちを無駄にしない社会にしないと」
そろそろシモンさんとテラ様が来る頃だな。
「こんにちは」
「お招きありがとう」
「いらっしゃい、シモンさん、テラ様」
今日はラーメンの食べ比べ会だ。
事前にテラ様と一緒に選んだラーメンの出前を次々と頼む。このメンバーなら伸びる心配はない。
塩、味噌、醤油、トンコツ、チャーシュー麺、ワンタン麺、坦々麺、家系、あとはジロウとか天下一番とかベジポタとか辛い北極海とかも出前を頼んでみた。
── 大食いの対決番組みたいだ。
私とウィルコで用意したメンマとチャーシューと半熟煮卵とネギも、どんどん減っている。頼まれるまま追加で注文しているけど勢いが落ち着いてきたので私も食べようかな。
…坦々麺にしよう、子供だからたくさん食べられないので悩んだよ。大好きだった赤坂のお店の一杯を出前してもらった。
ずぞぞぞぞー!
── これこれこれこれ!美味しいよう… 濃厚でクリーミーな胡麻スープ、旨味も辛味もちゃんと感じる。
みんなはどれが好きかな?と思って周りを見たら頼んだラーメンが無くなってきたことに気づいた。
「みんな追加は?」
「俺はトンコツがいい、濃いやつ」
「私もルイスと同じものを」
「僕は中華そばとか支那そばとか書かれているタイプがいいな」
「私は北極と坦々麺」
「私は最近の流行りの上品なタイプを食べてみたいわ。無駄に大きなドンブリの中心に澄んだスープと麺がちょこんと盛られたやつ」
モニカは私と同じく辛いもの好きだった!テラ様はお店をディスっていませんか?
ルイスとシモンさんに濃厚と評判のトンコツを何種類か、ウィルコにはいろんなランキングで上位に入っている人気店から、モニカには私の一押しを、テラ様には最近評判のお店の一杯を頼んだ。
「美味かったな!」
「ええ、どれも美味しいですね」
「みんなの好みが分かれたね」
「そうね、どれも美味しいけど好みは違うわね」
「僕の世界でも広まるかな?」
「麺はあるけど中華麺はまだ無いよね、醤油とか味噌とかは旧王国圏内にはないけど国外の少数民族に似たものがあったよ」
「ウィルコちゃんの世界はこれからが楽しみね」
あれこれ言いながら食べ比べは楽しいね、まだまだ4人でこの世界を旅するよ。とりあえず冬が来る前にやれることを頑張ろう。
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