第100話 ムルシア村のドライフルーツ
ドライフルーツの仕入れのためにムルシア村へ向かう。残暑が厳しいので転移で。
「こんにちはー」
「あんたたちは行商の!」
「よく来たな!ミゲルやサルマたちが待っているぞ」
門番さんに挨拶したら、すぐに分かってもらえた。今日の御者はウィルコで隣に私が座っており、暑さに弱いルイスとモニカは幌の中だ。
ミゲルさんやサルマさんたち、農業組合の皆さんがドライフルーツを作って待っていてくれていると聞いて、真っ直ぐ農業組合に向かった。
「ウィルコ君とカレンちゃん、久しぶりだね!」
「ルイスさんとモニカさんは?」
組合の皆さんとの再開を喜んでいるとヨロヨロなルイスとモニカも馬車から出てきた。
農業組合の人たちに馬を任せてさっそく商談だ。少しの距離しか走っていないけど暑かったよね、ありがとう。ルイスとモニカの様子をみて馬たちの世話を買って出てくれた組合の方にも感謝だ。
「ありがとう、生き返るわ」
ミゲルさんがルイスとモニカに冷えた井戸水をピッチャーで振る舞ってくれた。2人ともゴクゴク飲んでる。
「こんなに具合が悪いのに来てくれてありがとう」
「さっそくだけど見てくれるかい?」
長引かせるよりも要件を早く済ませようと提案してれてありがたい。
ミゲルさんたちが見せてくれたドライフルーツは、とても質が良かった。
「すっごく綺麗なドライフルーツ!」
薄く均一にカットされたフルーツは実に美しい。
「フルーツ農家一筋だからね、カットくらいは慣れているんだよ」
均一で美しいだけでなく筋張って食べにくい部分は綺麗に取り除かれている。見た目が良いだけじゃない、品質も素晴らしい。
「どうぞ試食してみてちょうだい」
サルマさんが薦めてくれたので遠慮なく…予想通り美味しい。
「すっごく美味しいね、筋とか硬い部分が全然無いよ!」
「本当だ、とても品質がいいね」
「でも作りすぎたんじゃないかと思うんだ」
「俺たち、調子に乗っちまったよ」
たしかに前金を払っていた約束の分より多い。
「全部買い取るから問題ないわ」
「契約の時に種類ごとにグラムあたりの買取金額を決めたが、そのままで問題ないか?」
「全部買い取って貰えるのかい!?」
「多い分には問題ない、むしろ北部で喜ばれるな」
「僕ら、これから急いで北部を回るよ。冬の間に甘いものを食べられるって、みんな大喜びだね」
「北部は冬が長くて農業にも向いていない地域が多いしフルーツもろくに育たないけど甘いものは人気があるの。寒くて長くて辛い季節に、こんなに美味しいドライフルーツを食べられたら心が慰められるわね」
「そうかい…」
「北部の人たちに喜んでもらえたら嬉しいよ」
涙もろい農業組合の人々が早くもウルウルだ。
「さっそく取引しようよ、ミゲルさん、サルマさん、秤はある?」
全員で計って箱詰めして取引が完了した。
「私たちも予想外の収入で助かるよ、この辺りは北部のように冬が厳しい訳じゃないけど暑いからね」
「暑い土地ならではの悩みもあるんだよ」
臨時収入は村の環境整備に使うらしい。
「新しい石鹸も躊躇わずに買えるねえ」
「ハルミレ石鹸?」
「そうそう、あれを使うようになってウチのサルマが
ミゲルさんが惚気た。大きな孫もいるのに仲が良くていいな。
「サルマさんたちが綺麗なのはフルーツのおかげじゃないの?」
「それが1番かもな!」
北部を回った後でまた来ると約束した。サルマさんたちも、どのフルーツが人気か知りたいって。
商談が終わると夕方だった。
「涼しい夜のうちに移動したいって気持ちは分かるけど気をつけてな」
「これを持っていきなさいな、休憩の時に食べてね」
「サルマのクッベは世界一美味いぞ!」
「わあ、ありがとう!」
「美味そうな肉の匂いがする…」
「ルイスさんは良い鼻をしているな!クッベは挽き割り小麦と羊の挽肉を混ぜた皮で挽肉、玉ねぎ、松の実やアーモンドなんかを炒めた具を包んで揚げた団子だ、上手いぞ!」
揚げ餃子みたいな感じかな、似たものをレバノン料理のお店で食べたことがあるけど美味しかったなあ。
「それは間違いなく美味しいわね、ありがとう」
「ちゃんと食べて元気出せよ」
「無理するなよ」
農業組合の人たちがいつまでも見送ってくれていた。
村から見えなくなった途端に転移で結界に帰った。
「美味しい匂い!」
「腹減ったな!」
ルイスとモニカが野生に返ったようだ。
「サルマさんのクッべとアイテムボックスのものでご飯にしようか?」
「それがいいわ!」
「これから料理なんて待てないからな!」
ウチの狼は待ての出来ない子たちだ。
アイテムボックスから出した一品目はムサカだ。揚げたナス、マッシュポテト、挽肉、ベシャメルソースを重ねてオーブンで焼いたギリシャ風。
2品目はギリシャ繋がりでグリークサラダ。トマト、フェタチーズ、薄切りのタマネギ、黒オリーブ、ピーマン、ゆで卵を合わせている。
あとは…中途半端に残ってるもの全部出しちゃえ、枝豆とソーセージ、焼き鳥、だし巻き卵、もつ煮、冷奴…居酒屋っぽいな。
「すごく豪華だね!」
ウィルコがはしゃいでいる。残り物なのに豪華だって!
「いただきまーす!」
もちろん全員サルマさんのクッべから食べるよ!
「美味しいね!」
「肉(入りの皮)で肉を包むとは…サルマさんは天才だな!」
「今度行ったら、僕は作り方を習うよ!」
「ウィルコは良い子ね!」
4人であっという間に完食した。
ルイスやモニカが暑くてもムルシア村へ行きたいと言い出すくらいサルマさんのクッべは美味しかった。
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ご訪問ありがとうございます。
おかげさまで100話です。
更新しようと開くたびにPV数が増えていたり、ブックマークしていただいていたり、評価が増えていたり、皆さまからいただく反応がとても励みになっております。
しばらくは書きためておりますが、最終話まで続けられるよう頑張ります。
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