第98話 ハルミレ石鹸と脱水機

 石鹸作りは成功だった。


 出来上がった石鹸を使ってみた巫女さんと神官さんたちが、髪や肌など全身に使えて、お肌もしっとり調子が良いとはしゃいでいるらしい、可愛いな。村人たちにも試供品を配り、好評なようだ。


 石鹸は油脂をアルカリ剤で煮ると出来るが動物性脂肪と灰で作ったものは、かなり臭くて身体を洗う気になれない。ハルミレ石鹸の普及で伝染病や皮膚病の発生が激減すると期待したい。


 ちなみにこの世界の洗濯は竈門で煮沸しながら棒でかきまわして洗濯する方法が一般的だ。面倒なこと以外は良い方法だと思う。面倒なこと以外は…。洗濯機の開発を待たないと改善のしようがないので頑張ってほしい。


 手を入れたのはウィルコの神託で洗濯は男性向けの仕事であるとしたことくらいかな。毎週末の朝に『時はきた、洗濯の時間だ』と国中の男性にむけて神託を下しているのだ。雨の日は神託無し。


 奥さんから言って喧嘩になってもいけないしね…っていうか怒るとこから勘違いだろと思う。自分で汚したものは自分で洗え。

 竈門で煮沸するのも絞るのも干すのも力仕事だから男性向きの家事だよね。ウィルコによると女性からの信仰が厚くなったらしい。


 衣類やシーツなんかを絞るのは大変だから脱水機くらいは作ろうかな。出来るのか…?と自分自身に半信半疑だったが、調べてみると脱水機から、夏休みの自由研究で出来る人力で動く遠心分離器までいろいろな物がヒットしたので、この世界のレベルに合わせつつ、それなりのサイズで作った。絞った方が楽なものは絞ってくれ。


 脱水機って現代日本でも普通に需要あるよね、価格もお手頃だし。私はペットのマロンちゃんの毛だらけのタオルとか別にしたいものに使っていた。


── 思わずルイス狼とモニカ狼をみた。神様だからペットみたいに手が掛からなくてよかった。このサイズをお風呂に入れてブラッシングはしたくない。お風呂を嫌がって暴れられたら怪我するわ。



「カレン、そろそろ肉の準備をしよう」

「晩ごはんね、何か食べたいものはある?」

「生姜焼きがいいな、あれは美味い」

「生姜焼きと白いご飯は合うわよね」

モニカも賛成なら生姜焼きで決まりだな。


「じゃあ主菜は生姜焼きで副菜は買い置きの野菜を使い切りたいからポテサラ、ナスとトマトとベーコンの重ね焼き、アスパラの豚肉巻きにしようか」

「いいわね」

「汁物は豚汁が食いたい」

 ルイスの胃が豚肉を求めているらしい。早めに使い切りたい豚肉があるのでちょうど良い。

アイテムボックスに時間経過は無いけど古いものから食べていきたいよね。



 ウィルコは世界を見守るのに忙しいので3人で準備する。野菜を洗ってカット。

 一品目はトマトとナスとベーコンを重ねてチーズをたっぷり乗せたらオーブンで焼くだけ。


 豚汁の豚肉は一口大に切る。ダイコンとニンジンはいちょう切り、ごぼうはササガキ、里芋は皮をむいて1cmの厚さに、コンニャクは5mmくらいの正方形に切って下茹で、油揚げは油抜きしてから1cm幅に切る。長ネギは輪切り。

 お鍋に油を熱してコンニャク、ダイコン、ニンジン、ごぼう、里芋を炒めて全体に油が回ったら豚肉を加える。

 豚肉に火が通ったら出汁を加えて煮込む。煮立ったら火を弱めて灰汁を取りながら煮込む。野菜が柔らかくなったら油揚げ、長ネギを加えて味噌を煮汁で溶いてから加える。一煮立ちさせてから火を止めて完成。食べる直前に温め直そう。


 ポテサラはキュウリとゆで卵とカニ缶を合わせた。この組み合わせ好きなんだよね。

 アスパラは豚バラ肉を巻いておいて、食べる直前に酒、みりん、砂糖、醤油で焼く。


 生姜焼きの豚肉は常温に戻して筋切りをしたら薄く小麦粉をつける。調味料が絡みやすくなるしトロミがついて美味しいよね。

 フライパンに肉を広げて火が通ったら、おろし生姜、醤油、お酒、みりんを加える。フライパンを揺すって肉の上下を返しながらタレを肉に絡めて照りが出るままで煮つめたら火を止めて千切りキャベツと一緒に盛り付ける。


「ご飯にしようか、ウィルコを呼びにいくね」


 ウィルコの部屋をノックしても返事がないので静かにドアを開けると、うたた寝していた。


「ウィルコ?」

 そっと声を掛けると起きたがポヤポヤしている。

「疲れてるね、何か問題があった?」

「問題は無いよ、みんな以前よりも幸せそうなんだ。夢中で見ていたんだよ」

「ご飯の時間だけど食べられる?」

「うん!すっごくお腹が空く匂いだね、生姜焼き?」

「正解」


 テーブルに炊きたてご飯が土鍋ごと置いてある。

「新米が出ていたから買っちゃった、お水少なめで炊いたら大成功だね」

 お茶碗に盛られたご飯が艶々で美しい。


「いただきまーす!」

 豚汁うまー。具材から出汁が出てうまー。


「白いご飯と生姜焼きが合うわ…」

 ルイスとモニカが生姜焼きでご飯を包んで頬張っている。すっかりお箸の使い方も上達したものだが巻きすぎだろう。

 チーズとベーコンにつられてトマトとナスの重ね焼きも美味しいと食べている。神様に栄養バランスが必要なのか分からないけど元気でいてほしいし美味しいから野菜もすすめている。


「アスパラの肉巻きも美味しいね、これもご飯が進むよ、生姜焼きも美味しい」

 豚肉とアスパラは合うよね。ウィルコもたくさん食べてね。



 石鹸作りと普及を通じて、この世界がウィルコを中心に回り始めたと感じる。未来は明るいね。

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