第214話 ジャブライルさん

「ルスランさんたち、いい人だったね」

「ああ、ルスランさんが紹介してくれたお兄さんのグループの拠点は、そろそろじゃないか」


 ルスランさんが、ぜひお兄さんの拠点にも寄ってくれと手紙を持たせてくれた。

 お兄さんの名前はジャブライルさん。ジャブライルさんを中心に5家族のグループらしい。



 カッポカッポ進むうちに家畜の集団が見えてきた。遠くからでもルスランさんのグループよりも規模が大きいことが分かる。家畜の数が2000以上多いってことだもんね。


「ルスランの紹介か!歓迎するぞ」

 ルスランさんの手紙を見せると喜んでくれた、もう2、3年会っていないらしくてルスランさんたちの様子を詳しく聞かれた。


「あいつらも元気にやっているんだな。それに商人と言ったな、ワインや調理器具があるとルスランの手紙に書いてあったぞ?」


「コモティ村の白ワインと小麦粉がある」

「ルスランさんはメスティンやS字フックや洗濯バサミも気に入って買ってくれたわよ」

「全部見せてくれ!」


 商品を並べてジャブライルさんたちに説明すると、いろいろ買ってくれた。ルスランさんたちと同じように毛皮の買い取りを相談されたけど売るのは冬前がいいと話した。



「ところでルイスさん?」

 一通り商談が終わったらジャブライルさんの目がキラリと光った。


「他にも欲しいものがあるのか?」

「いやいやルスランの手紙に書いてあったんだがルイスさんは料理が得意らしいな?」

「俺の唐揚げは美味いぞ」

 ルイスが自慢げに胸を反らす。


「ほお?」

 ジャブライルさんの目が光る。

「料理はワシも得意だ!ワシの料理はルスランよりも美味い!」

 えへんと胸を張るジャブライルさん。


「またそんなこと言って!」

 ジャブライルさんの奥さんのザミラさんがジャブライルさんをどついた。


「お互いに自慢の料理を振る舞うだけならいいけど、お酒が入るといつも兄弟喧嘩になるのよ、もういい大人なのに」

 ザミラさんに怒られてジャブライルさんが小さくなった。


「唐揚げはルスランさんたちの知らない調理法だと聞いた。よければご馳走させてくれ」

「いいのか!?ならワシはケバブを焼くぞ」

「ケバブならルスランさんにご馳走になったぞ!美味かった」


「ふふふ」

 ジャブライルさんが不敵に笑う。


「ワシのケバブはルスランのケバブとは違うんだ。ルスランのケバブは串焼きだったろう?」

「ああ、ひき肉を串に巻きつけてあって美味かった!」


「ワシの自慢のケバブをご馳走してやるぞ!」

「じゃあ俺たちは唐揚げを作ろう」


 私たちは今回も同じ。半分は塩とオレガノ、ローズマリー、タイム、おろしニンニク、おろし生姜で下味をつける。もう半分のお肉は塩とバジルとおろしニンニクで下味をつけておいて、下味が染みたら粉をまぶして熱した油でじっくり揚げる。

 5家族分だからたくさん揚げる。ルイスとモニカもたくさん食べるしね。


 私はジャブライルさんの調理を見学。子供だから自由だ。



── ジャブライルさんのケバブはドネルケバブだった。


「下味を付けた肉をスライスして串に刺して積み重ねて大きな肉にするんだ。この下味がワシの自慢なんだぞ」

 ジャブライルさんが楽しそうに解説してしてくれる。


「すごいね!とっても美味しそう」

 これは期待しちゃうよ。ひき肉で作ったルスランさんのケバブも美味しかったなあ。


 ジャブライルさんが全部のお肉を差し終わると大きな肉の塊が出来上がった。この塊を

炙って外側の焼き上がった層を大きなナイフで薄くそぎ落として食べるのだ。



 ジャブライルさんが火の横で肉の塊をゆっくりと回して炙っているところに、唐揚げを揚げ終えたルイスとモニカがやってきた。


「そ、その塊は!?」

「絶対に美味しいやつじゃない!」

 ルイスとモニカがジャブライルさんのお肉に釘付けだ。2人とも目がハートになっている。


「2人ともジャブライルさんたちを呼びに来たんじゃないの?唐揚げもスープもパンもできたからご飯にしようよ」

 ウィルコの一言でルイスとモニカが現実に戻ってきたので皆んなでご飯だ。



「いい焼け具合だ!外側の炙った層を薄くそぎ落として食べるんだ」

 ジャブライルさんが薄くそぎ落としたお肉を配ってくれた。


「美味い!」

「本当に美味しいわ、いくらでも食べられそう」


「パンで挟んでみたよ、肉汁をこぼすのが惜しいから」

 ウィルコがケバブと野菜をパンで挟んでルイスとモニカに渡す。


「そうだな!肉汁をこぼすのはもったいないな!」

「ウィルコったら天才の発想ね!」

 ウィルコのカサ増し作戦にのせられたルイスとモニカがケバブサンドでお腹いっぱいになる未来が見えた。


「それよりもルイスさんたちの唐揚げだ!」

「そうね、本当に美味しいわ」

 唐揚げはジャブライルさんやザミラさんたちにも好評だった。


 ルイスとモニカがカサ増しサンドで誤魔化されている間に皆さんにたくさん食べてもらいたい。


 ジャブライルさんのケバブは本当に美味しい。屋台や持ち帰り専門のお店で食べたドネルケバブを思い出すな。


「ジャブライルさんのケバブ美味しいね!」

「カレンちゃんに気に入ってもらえて嬉しいぞ!それはそうと、この唐揚げの味付けはどうやっているんだ?」

「ハーブとニンニクだ。ハーブは乾燥させて日持ちするようにしている」

「ルスランさんもハーブを気に入って買ってくれたのよ」

「ワシも買いたいぞ!」



 翌朝、名残惜しそうに見送ってくれて、また寄ってくれと季節ごとに移動する場所を教えてくれた。

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