第168話 黒糖オレンジジャム

「黒糖でオレンジジャムを作るわよ!」


 レシピ動画を観たモニカとルイスが村人たちを集めて腕まくりする。



 事前に黒糖を使ったレシピの動画を観て手順を覚えてもらったが『黒糖 レシピ』の検索結果は甘辛く味付けした肉料理ばかりだった。

 検索結果一覧を観たモニカ狼とルイス狼がラフテーと魯肉飯ルーロウファンを作って食べると言い張ったが、この国には醤油がないのでサン・ポル島ではラフテーも魯肉飯ルーロウファンも作れない。結界に戻るまで我慢するようウィルコと2人で説得した。


 ウィルコが手こずっていたけれど、いやいやするモニカ狼とルイス狼は可愛かった。



 どの種類の砂糖を使ってもジャムの作り方に変わりはない。オレンジの実とすりおろした皮を鍋に入れ、黒砂糖とレモン汁を混ぜ合わせて一晩おく。

 この鍋を火にかけて、とろりとするまで煮たら火から下ろして冷まして煮沸消毒した瓶に熱いうちに入れる。



「これで出来上がり。甘いわよ」

「パンにつけて食べてみると良い」


 モニカとルイスが小さくカットしたパンをすすめると村人たちの顔が驚きと喜びに包まれる。



 村全体での味見が終わったら商談だ。


「サトウキビから黒糖が出来るのは分かってもらえた?」

「はい…あの憎きバガスから…まさかという思いです」

 村長さんの言葉に肯く大人たち。子供の頃の思い出は相当辛かったようだ。



「黒糖やジャムで仕入れさせてもらえるなら価格はこのくらい」

 モニカがグラムあたりの仕入れ価格を提示すると驚きの声が上がった。いずれ他の地域で生産が始まったらクオリティの向上や価格競争が始まると思われるが、それはまだ先の話だ。しばらくの間、黒糖は高級品だ。


「これは村全体で話し合いが必要だな」

「村で食べる分も確保しないと!」

村人たちがやる気になった。


 2週間後にまた来ると伝えていったん島を離れ、野生のサトウキビが生えている南部の地域を回って同じやり取りを繰り返した。


今年は国中で甘味が流行しそうだ。楽しみだね。

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