第106話 ヨナスさんのリネン
「お前たちか!よく来たな、入ってくれ」
ヨナスさんの工房に直行したら大歓迎された。
「それでな、トーマスの奥さんが村ごと買い上げたいくらいだって言っていたぞ」
トーマスさんは奥さんと従業員の夫婦と4人で仕入れにやって来たらしい。村伝統のシンプルなリネンとヨナスさんの派手派手リネンを、馬車に乗るだけ買って行ったらしい。
「絶対に人気になるって思ったよ!」
「前回来た時もカレンちゃんは気に入ってくれたな」
「うん、モニカとお揃いでお仕立てしてもらったんだよ」
「似合ってる、可愛いぞ」
「えへへ、ありがとう」
「モニカさんも似合うな、うちの村は薄い色や自然な色が好まれるんだが俺は濃い色や柄が好きでな」
──そう、私は薄い色が似合わない。生前、着物を仕立てた時も呉服屋さんに『花蓮さんは日本の母が娘に着て欲しいと思うような桜色や藤色が合わないですね!』って悪気なく言われたものよ。まあ私の話とは関係なくモニカは似合ってるんだけどね!
「モニカが着ると、王都でもみんなが振り返るんだよ」
「見られるのはカレンが可愛いからよ」
「モニカは全然分かっていないなあ、無自覚な美女は危ないんだから」
気をつけてね!って言うと、ハイハイって答えるモニカは全然分かってない。ヨナスさんが苦笑してるよ。
「それより新しい布を見てくれよ」
ヨナスさんが大きな籠を運んできて、反物を一つずつ広げて見せてくれた。
「とってもキレイ…」
「いろいろ試して思うような濃い色が出た。そうやって染めた糸で織ったものだ。複雑な模様もいいが今回はシンプルに仕上げた」
濃い色を合わせるのが楽しくて、あえてシンプルな配色にしたんだって。単色の布もある。
これ、着物に仕立てたくなる…ヨナスさんが以前見せてくれたテーブルクロス用の布を帯にしたい。…早く大人に戻りたいな。
「ほら、あててごらんなさい」
私が見ていた明るい
「似合うじゃないか」
「可愛いよ」
ルイスとウィルコが私を見つめる目がいつも以上に優しい。
「これを重ねてみろ」
ヨナスさんが鮮やかな藍色の布を重ねてくれた。
「きれい…」
「ヨナスさんのセンスは凄いな、全然違う色なのに合うね」
私もウィルコに賛成だ。ヨナスさんの色使い、大好き。
「モニカもあててみて!」
当然似合う。モニカだもの。
「じゃあこれは買いだよね、モニカとお揃いでお仕立てしてね」
「ええ購入するわ。ヨナスさん、他も見せてちょうだい」
モニカが張り切って大人買いする気だ、モニカとお揃い!嬉しい!
「いいな…」
「僕も…」
ルイスとウィルコが何か言ってる。
「ヨナス、俺もカレンとお揃いが良い」
「僕も!」
思わずルイスとウィルコのワンピース姿を想像してしまった。まあウィルコは細身の美少年だから似合うかも…いやいや、そうじゃなくて!
「お揃いって?」
「何かあるだろう?」
具体的なアイディアは無しか…どうしよう…なんか…そういうの、どこかで見た気がする…何だっけ…。
思い出した!夫婦歴が40年近いご夫婦インフルエンサーだ!
奥さんのスカートと旦那さんのシャツがお揃いのチェックの生地で、お互いのジャケットの色を合わせたり、色違いのダッフルコートを着ていたり、雰囲気ペアルックの写真をたくさん投稿してて素敵な写真が人気なんだよね。私もフォローしてた。
「モニカと私のワンピースと、ルイスとウィルコのシャツを同じ生地で仕立てようよ。あとはルイスとウィルコのズボンの色とモニカと私のカーディガンの色を合わせたらお揃いっぽいよ」
「そうなのか?」
さっぱりイメージ出来ないルイスがヨナスさんに意見を求める。
「……いいな!」
目を瞑っていたヨナスさんがカッと目を開いた。
「採寸だ!全員そこに立って!」
有無を言わさずに採寸された。
「俺はこれから仕立てに入る。出来たら呼びにいくから待っててくれ」
ヨナスさんは洋裁も出来るのか…私たちは広場に戻って野営の準備だ。
「インスピレーションに人格が乗っ取られたみたいだったね」
「うん、芸術家って感じ!」
ウィルコと一緒にシチューを作りながらヨナスさんの豹変ぶりについてお喋りする。
ルイスとモニカは肉とパンを焼いている。
今日は中途半端に余っている肉と野菜を串焼きにしている。味付けは塩とニンニクとハーブ。
「肉が焼けたぞ」
「こっちも出来たよ」
「串焼き美味しいね!」
「いろんな肉を食えるのはいいな」
中途半端に食材が余った日の串焼きはルイスとモニカの大好物だ。結界でご飯の時はいろんな味付けが出来るけど、野営の時は人目があるから、この世界で一般的な調味料しか使えない。それなのに充分美味しいんだよねえ。
4人で食べるアウトドアご飯は今日も美味しかった。
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