第121話 ムルシア村のクッべ

 翌日は昼前からホットサンドメーカーのデモ販売をした。


 ホットサンドメーカーをムルシア村の鍛治師が作る気になってくれたらデモ販売は大成功だ。でもチーズが受け入れられる可能性はまだ低そうな気がしている。


「こうしてハムとチーズを挟んで焼く」

 ルイスとモニカとウィルコがハム2枚とチーズ1枚でハムチーズのホットサンドを焼いてカットして配る。チーズ慣れしていない村人向けにチーズは少なめだ。


「これ美味しいな…」

「私も好きかも…」

チーズ入りも意外と反応がいい。


「さっきのお肉とキャベツの組み合わせも美味かったけど俺はこっちの方が好きだ」

 コンビーフとキャベツのホットサンドも好評だった。


「これはトマトソースとモッツァレラとバジルよ、うちのカレンが好きな組み合わせなの」

 マルゲリータっぽい組み合わせのホットサンドをモニカが配る。


「これ美味しい!」

「私も好き!」

マルゲリータは女性人気が高い。美味しいよね。


 若い村人に少しだけチーズが売れた。

村の鍛治師もホットサンドメーカーに興味津々だったのでホットサンドがムルシア村で定着するかもしれない。



 デモ販売とドライフルーツの買取が終わるのを今か今かと待っていたのはルイスとモニカだ。


「サルマさんに教えて欲しいの!」

「今回は、これを目標に旅して来たんだ」


 ルイスとモニカの目的はクッべのレシピだ。前回の訪問時にサルマさんが持たせてくれた手作りのクッべに惚れ込んだのだ。


 クッベは挽き割り小麦と羊の挽肉を混ぜた皮で挽肉、玉ねぎ、松の実やアーモンドなどの具を包んで揚げた団子だ。

 前回の訪問時に持たせてくれて『肉(入りの皮)で肉を包むとは!』とか『サルマさんは天才だな!』とか言って、皆んなであっという間に平らげた。



「ずいぶん気に入ってくれたんだねえ、嬉しいよ」

「必要と思われる材料は用意してあるのよ」

「包丁で叩いて細かくした肉を大量に用意したぞ」

── そう、ルイスとモニカが張り切ってミンチを作った。


「ブルグルも買ってあるよ、砕いたデュラム小麦を一度茹でてから乾燥させたものでしょう?」

 肉以外の材料はウィルコと私で揃えた。


「一度食べただけで、そこまで分かったのかい?凄いねえ」

 サルマさんが感心しているが、インターネットで地球のクッべの材料と作り方を調べたのだが材料はだいたい合っているようだ。


「じゃあさっそく作ろうか」


 まずはブルグルを水に浸ける。浸している間に玉ねぎをみじん切りにして叩いた肉と合わせて、さらに包丁で叩いて滑らかにする。

 ブルグルが柔らかくなったら水気を絞って肉と合わせて塩とクミンで味付け。これで肉だねを包む皮は出来上がり。

 次に中に入れる具を作る。みじん切りの玉ねぎを炒めたら、叩いた肉と松の実とパセリのみじん切りを加えてさらに炒めて塩で味付け。

 水を入れたボウルを用意してね。手を水で湿らせて生地を手に取って広げたら肉だねを入れて閉じる。


「みんな上手だねえ」

 サルマさんが驚く手際で大量に包むルイスとモニカとウィルコ。特にルイスとモニカは美味しい肉を食べるための努力を惜しまないよね、神様補正で器用だし。


「凄い量が出来たね、これを油で揚げたら完成だよ」

「じゃあ手分けして揚げていきましょう」


 デモ販売で使った調理台や竈門が役に立つ。ルイスとモニカが凄い勢いで揚げていく横でウィルコが揚げ係から離脱した。


「僕はカレンを手伝うよ」

「ありがとう」

 パンをスライスしたりサラダを作ったりしていた私の方を手伝ってくれてトマトスープを仕上げてくれた。


「全部揚がったわよ」

「鍋は油が冷めたら片付けよう、熱いうちに食いたい」


 ちょうど良く、すべての支度が整ったので農業組合の皆さんと一緒に食卓を囲む。

「すっごく美味しそうだね、いただきます!」


やっぱり最初はクッべから。

熱っ!はふっ、はふはふ…はふはふ…

「美味しい!」

 熱くてサクサクで美味しい。中の具も具を包む皮も全部美味しい。


 隣を見るとルイスとモニカが上品にがっついていた。

「揚げたては最高ね」

「永遠に食えるな!」

「僕も好きだな、美味しいね」

ウィルコが1番上品な良い子だった。ルイスとモニカが幸せそうにクッべを食べる。



「ミゲルさんたちが用意してくれたチョリソーも美味しいね!」

「そうかい?ありがとう」

「特にこのスパイスの効いたチョリソーはモニカの好みだと思うよ」

 ルイスとモニカがクッべの食べ過ぎで腹八分目を超えたな…と思ったタイミングでモニカに進めた。ある程度満腹状態でないと2人で村の食料を食い尽くしちゃうかもしれないから…。


「ぜひルイスさんとモニカさんも召し上がっておくれ」

「ミゲルのチョリソーは美味いんだよ」

「ホルヘのチョリソーも絶品だぞ」

 ミゲルさんとホルヘさんがお互いに褒め合いながら大きくカットしてルイスとモニカのお皿にチョリソーを盛ってくれる。


「………」

「………」

2人のモグモグタイム。


「どうだい?」

「美味しいわ!」

「美味い!」


「そうかい?」

「もっと食べるといい」

嬉しそうなミゲルさんとホルヘさんがチョリソーをカットしてはルイスとモニカのお皿に乗せる。わんこチョリソーだ。


 しかしクッべだけで腹八分目を超えていたルイスとモニカは、そんなに食べられなかった。


「残念だわ…本当ならもっと食べられるのよ…」

「サラダとスープさえ無ければ…」

ルイスとモニカが悔しそうだ。


「残りはお土産に持っていくといい」

「美味そうに食べてくれて嬉しいよ」

 ミゲルさんとホルヘさんが残ったチョリソーを包んでくれた。

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