第104話 バンスカー村へ
次にやってきたのはハチミツが名物のバンスカー村だ。
前回は養蜂業を営むアントンさんとニコルさんからハチミツを譲り受けた事をきっかけに、村をあげてハニーケチャップを作って貰うことになった。他所の村や王都で広めた結果、何人かの商人が仕入れにやってきたらしい。
門番さんによるとハチミツもハニーワインもハニーケチャップも商人たちから人気で、次々と訪れる商人たちが値切ることもなく村が定めた価格で買ってくれるらしい。
アントンさんとニコルさんは養蜂で息子さん一家のところに行っていて不在にしているとのことで残念だったが、鍛治師のユライさんに会いに行ったらとても喜んでくれた。
トングやダッチオーブン、メスティンの見本を渡していくつか作って貰ったが、次に来られる時期は約束出来ないので近隣の村などに、どんどん販売して稼いでくれと伝えたらユライさんはビックリしていたっけ。
ルイスが『それでたくさん儲けて、次に俺たちが運んでくる物を買ってくれ』と言ったら『それは商人らしい考え方なのか?』と不思議がられてしまったんだよね。
「…だからって無理するな」
「そうよ、必要ないものを無理矢理売りつけるような商売はしていないわ」
「…………だ」
「え?何?」
「聞こえないぞ?」
「……好きなんだ」
「何が?」
「甘いものだ」
「……」
「……」
ユライさんとルイスとモニカが無言で見つめ合う。ガチムチなユライさんが甘いもの好きとは意外で可愛い。ギャップ萌えというやつかもしれない。
「じゃあグラノーラ・バーも好きかもね!」
「試食してみて」
私とウィルコが勧めるとユライさんは躊躇なく齧り付いた。
「美味いな!」
「炒ったオートミールとナッツとドライフルーツをハチミツに絡めたんだよ」
「オートミールは邪魔じゃないか?」
ユライさんは相当な甘党だった。
「一緒に食べるからザクザクしてて美味しいのに」
「オートミールはビタミン、ミネラル、食物繊維、鉄分が豊富だから栄養があるんだよ」
「栄養とか健康の話はいい、俺は好きなものは自分が美味いと思うように食いたい」
ガチムチなユライさんがプイっとした。
好きなものは好きに食べたいという点に共感したモニカとルイスが『分かる…』って感じで見てるし。
ウィルコがユライさんにオートミール少なめでグラノーラ・バーの作り方を教えることになったがユライさんは手際が良かった。
「ユライさんは料理も上手だね、モノづくりのセンスがあるのかな?」
「そうか?」
甘々な“ドライフルーツとナッツをハチミツで固めたバー”を作って試食したユライさんがご機嫌だ。『甘くて美味いな!』と、ご満悦だ。
「この間カレンが朝食に食べていたやつも好きそうだね」
「嬢ちゃんは何を食べたんだ?」
「ハニーナッツのこと?」
「それは何だ?」
ユライさんの目が光った。
「ローストしたナッツをハチミツに漬けただけだよ、パンに乗せて食べたの」
ハニーナッツはブームになった時に小洒落たカフェで売っていた。小さなビンで1000円くらいしたアレだ。
買うと割高だが自分で作ると安上がりなので私は自分で作っていた。パンに乗せたりヨーグルトに混ぜた写真が写真共有アプリを賑わせていたが、味はナッツ入りのハチミツで意外性もないし驚くほど美味しいものでもない。
「これは良いな!」
味は見た目通りナッツ入りのハチミツで意外性もないし驚くほど美味しいものでもないが、ユライさんは気に入ったようだ。ハニーナッツを1ビン、ハニードライフルーツを1ビン漬けてご満悦だ。
「ビンの煮沸消毒もちゃんとしたから1年は保つからね」
そう、ハニーナッツは保存食なのだ。でもユライさんは1年も保たずに完食しそうだな。1年は保つというウィルコの言葉が右から左だ。
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