第103話 ブレスト村の冬支度

 ブレスト村に来た。前回来た時に食中毒騒ぎがあった村で、ヴァジムさんとオリガさんのご夫婦に東欧風の料理をご馳走になった村だ。


 この村でウィルコの成長を感じて、結界に戻った時にシモンさんを呼んでウィルコのステータスを確認したら神様らしい数値に成長してて、みんなで喜んだんだよね。

 ルイスとモニカとお別れかと切なくなったけど2人が残ってくれることになって…嬉しい記憶がよみがえる。



 広場でデモ販売の準備をしていたら村人たちが次々と声をかけてくれる。

「久しぶりだねえ」

「あれから気をつけるようになって、古いものは食べないようにしているんだよ」

 古くなる前に食べきって、余りそうな時は古くなる前に燻製にしたり保存食にしているらしい。


「今年は豊作でね、近くの村に売るほど余裕があるんだよ」

「それは素晴らしいわね」

「冬も安心だな」

 ブレスト村は農業が順調だったみたい。寒さに強い品種の種類もたくさん買ってくれたから今後も楽しみだね。


「農地を広げて、家畜も増やすんだ」

「何もかも順調じゃないか」

「ああ、冬を無事に過ごせたら最高だ」

 北部だけど寒すぎないし、ブレスト村はこの先すごく発展しそうな予感がする…。



「ちょっと頼みがあるんだが」

 ウィルコと2人で商品を並べていたらブレスト村の若い男性たちがウィルコに声をかけてきた。


 ウィルコに料理を習いたいという頼み事だった。前回、この村でデモ料理を作ったのはウィルコだった。丁寧に骨から出汁をとって病人向けに美味しいスープを作った。それもあってウィルコに憧れる村のお嬢さんが多かったんだって。

「僕は構わないけど、それだけじゃ好きな人に嫌われると思うよ」

「なんで!?」

さっぱり理解出来ない男性陣。


「後片付けだよ。料理をすることしか考えていないよね?後片付けは何倍も大変なんだよ。洗ってもすすいでも落ちない油汚れ。固くなった食べ残し…。楽しいところだけやって手間のかかる仕事だけ残しておいたら奥さんは出て行くと思うよ」

 後片付けのことまで考えていなかった男性陣は返す言葉も無い。


「神託で洗濯は男の仕事って言われるようになったけど、炊事もどっちかっていうと男性向けの仕事だよね。僕も最初は下ごしらえとか後片付けから習ったんだよ」

──ウィルコは奴隷みたいなステータスになってたことがあったな…


「簡単に出来て男性向けのレシピなら教えられるけど、愛されて信頼されるのは毎日の皿洗いを受け持ってくれる男性だよ」

 以前のデモ販売でもウィルコが後片付けまできっちりと行っていたことを思いだした男性陣がうなだれる。


「後片付けのコツも含めて教えようか?」

「いいのか!」

「是非頼む!」

 教えることになった。ルイスとモニカにデモ販売を任せてウィルコは料理教室だ。ウィルコが心配なので私はウィルコにくっついている。


「肉をこそげ落とした骨で出汁を取ってスープにしよう。ブレスト男子の名物スープになるよ」

 ウィルコの指導で骨ガラを綺麗に下処理する。臭みの無い美味しいスープに仕上げるために丁寧に下処理を行うよう念を押して全員の作業を確認している。


「丁寧に処理された骨はナタのような包丁のようなものでバキバキ折って鍋に入れるよ。こっちの大きなお鍋で煮ようか、香味野菜とローリエとも一緒に入れて灰汁をすくってね。弱火でコトコトだよ」

 骨をダン!ダン!と割っていく様子は男性向けレシピっぽい。


 ウィルコの指導で澄んだ美味しいスープが出来上がった。試食にやってきた家族や恋人にも好評だ。スープを出汁に使ったシチューや雑穀リゾットも教えた。残り物の肉や野菜を使い切るよう教えていて、これは女性陣からポイントが高い。奥さんに使い切りたい食材や食べたい食材を確認してコミュニケーションを図ると、その後の試食でも会話が弾んで楽しくなるってアドバイスは大正解だ。これは入れて良かったね、美味しいねって盛り上がるよ。


──ウィルコが小さなお皿で私にも食べさせてくれたけど美味しく出来てる。心配でくっついてきたけどウィルコったら完璧だよ…。

 たまーーーに料理をしようとして食材を荒らされたら奥さんは激怒だが、残り物整理なら円満だ。


 カレンは気づいていないが小さな妹と仲の良いウィルコの図は高感度が高い。働き者で面倒見の良いウィルコの指導はブレスト男子の胸にすっと染み込んだ。



 食後の後片付けはウィルコと男性陣だけで行った。鍋やお皿を水場に運んで、冷たい水でこすり洗い。すでに季節は秋で水が冷たく感じられる。


「洗い物って、こんなに大変だったのか…」

「今はまだいいけど冬は辛いな」

「油汚れが全然落ちないぞ…」

浮かれていた男性陣の声が今は真剣だ。


「普段から後片付けを任せっきりじゃなくて2人で一緒にやるといいよ、一緒に過ごす時間も増えるよ」

村の男性陣が真剣な表情で肯いた。



『ウィルコ君は偉いな』

『ああカレンちゃんは聞き分けが良くて大人しい子供だけど、子守りと家事を両立するのは大変だ』

『カレンちゃんが聞き分けが良いのはウィルコ君の躾の賜物じゃないか』

『俺もそう思う』

ブレスト男子たちはカレンが知ったら憤慨しそうな内緒話で盛り上がっていた。



 数年後、ブレスト村の男性陣は近隣の村の女性たちの間でも評判になり、その噂は王都にまで広まることになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る