第102話 エメン村を再訪

 エメン村で村長のアンリさんと奥さんのメラニーさんの家を訪れたら赤ちゃんが生まれていた。夏に生まれるって言ってたものね。


「可愛いねえ」

 生まれてきた赤ちゃんは男の子だった。ウィルコは自分の世界の人間はみんな可愛い我が子だし、ルイスとモニカは小さな生き物に優しい。子供大好きなメンバーがメロメロだ。


「あれからチーズを買い付けに大勢の商人がやってきて、その利益で冬を前にいろいろと買うことも出来ています。おかげさまで赤ちゃんの発育も良いんですよ」


「今はまだ王都でもグルメな連中の密かな楽しみだが、これから一般に広まったらもっと多くの商人が来るぞ」

「僕は南の地域でも広めたいんだ」

 ルイスとウィルコの言葉に喜びを隠しきれない表情のアンリさん。


「北部では他の村でもチーズを作っているから商人も分散しているんじゃないかしら?」

「あの商人たちが全員、ひとつの村に押し寄せたらと思うとゾッとするな」

「でも全部の村に対して需要は増える一方だと思うよ」


「本当にありがたいことです…」

 今までの苦しい生活を思い出したのか涙声のアンリさん。これはウィルコがヤバい。


「ウィルコ!あれ持ってきた?」

 ウィルコの手をグイグイ引っ張って注意を反らす。

「あ、うん。これ?」

ウィルコがドライフルーツの試食を取り出す。


「南部のフルーツを干したものでね、そのまま食べても美味しいよ。こっちは煎ったオートミールやナッツと一緒にハチミツで固めたグラノーラ・バー、食べてみて」


「甘いのね!」

「南の地域で獲れるフルーツを初めて食べました」

「南はフルーツの種類が豊富なんだ。干してあるから日持ちするし、グラノーラ・バーにすると栄養価もアップして食べ応えあるし、冬場に保存食だけで作れるよ、グラノーラ・バーも試食してみて」


「冬に甘いものを食べられるのですか…!」

アンリさんが驚いている。

「美味しいわ!」

メラニーさんは気に入ったみたい。


「それぞれ値段はこのくらいになる。この村で売れると思うか?」

「ええ、冬のちょっとした贅沢として欲しがる家庭は多いと思います。チーズが売れているおかげで無理なく買える価格です」


 良かった。私たちは儲けが少なくても良いけど、今後ドライフルーツをこの世界の商人が販売する時のために適正な価格で売らないといけないから価格設定は大切だ。


「明日、デモ販売の許可をもらったからグラノーラ・バーの作り方も教えるね」

「キャラメルのやつも作るよね?」

 キャラメル・グラノーラ・バーは私の一押しなのでウィルコに念を押す。

「もちろん作るよ、カレンの好きなやつだよね」


「カレンちゃんとウィルコ君は少し距離が縮まったのかな?」

 アンリさんが私とウィルコが前回と違う雰囲気だと感じたらしい。前回来た時は1.2mの距離をキープしていたけど、今日はウィルコとくっついている。


「あの時は僕がカレンに悪いことしちゃって…」

「私も怒りすぎだったよ」

えへへと笑い合う。


「将来、この子に弟か妹が生まれたら喧嘩したりするのかしら?」

「そういうのもいいな、賑やかで」

アンリさんとメラニーさんは2人の世界だ。



 翌日、広場でデモ販売を行った。前回はピーラーとチーズおろし器が1番売れたんだけど、今回はダッチオーブンも売れたし、デモの試食のおかげでハチミツとドライフルーツが結構売れた。


「ポロポロのそぼろ状に作って牛乳をかけてスプーンですくって食べても美味しいよ」

私の世界では一般的な食べ方だったので紹介する。


「牛乳を持ってこよう」

私たちは食器とスプーンを持ってくるわ。

見学していた村人たちが用意してくれて試食が始まった。


「これは美味しくて食べやすいな」

「私もこの食べ方が好きよ」

 グラノーラ・バーも美味しいけどオートミールの部分が固くて食べづらいことがあるから牛乳で柔らかくなると、ぐっと食べやすくなるよね。


 この後、チーズを生産している他の村も回ったら同じようにドライフルーツとハチミツが多く売れた。

 どの村でもモヤシやブロッコリースプラウトの栽培に挑戦しているみたいだし冬の野菜不足への対策はバッチリだ。以前販売した寒さに強い品種のジャガイモや野菜の生育も順調だって。

 瓶詰めや燻製の保存食作りも進んでいて冬への備えは今までにないレベルだって!ウィルコも私も一安心だよ。

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