第243話 安成村の麻婆豆腐
「とうとう醤油と味噌が手に入ったな!」
「ウィルコの世界でも醤油で甘辛く味付けしたお肉が食べ放題ね!」
「ルイスもモニカもありがとう」
牛若村の後、いくつかの村を回って同じように仕入れと販売を行い、日本ぽいエリアを制覇した。
「ねえ、真っ直ぐ戻らずに中華っぽいエリアに寄ろうよ」
四川ぽいエリアの
「四川は良いわね!」
「麻婆豆腐があるといいな!」
モニカとルイスも賛成してくれたが、たぶん麻婆豆腐は無い。
麻婆豆腐は清の同治帝の治世に生まれた料理だから最近のものなんだよね。でも美味しいから今出来てもいいよね。ちなみに同治帝の在位は1861年から1875年まで。
「そっか、じゃあ僕らが麻婆豆腐を伝える人になるんだね」
「それはいいな!」
「
「ちゃんと仕込み済みなのね!」
「さすがウィルコだな!」
はしゃいでいるうちに中国の田舎っぽい風景が見えてきた。自然の風景なのに水墨画っぽい。
以前、ウィルコの世界はコンパクトに地球が詰まっているねって聞いたら『ファミコンのマップを参考にした』って言ってたな。ウィルコは長命な神様っていうより現代っ子だなって思ったんだ。ファミコンてところがレトロだけど。
「あれじゃないか?」
門番が立つ村の入口が見えてきた。
「こんにちは!」
「はい、こんにちは」
「
私が挨拶するとにこやかに返事を返してくれた。
「俺たちは家族で行商をしているんだ」
「行商か!」
「保存食や香辛料、チーズ、病気や寒さに強い穀物や野菜の種子、甜菜糖やワイン、鍋や雑貨類を扱っている」
「歓迎するぞ!まずは村長に会ってくれ」
門番さんが村長さんに引き合わせてくれた。
「
村長の陳さんは女性だった。
「保存食や香辛料、チーズ、病気や寒さに強い穀物や野菜の種子、甜菜糖やワイン、鍋、雑貨類ですか!助かります」
「仕入れもさせて欲しいの」
「うちの村には特にこれといったものが無いんですよ」
「ここに来る途中にたくさん生えていた四川唐辛子が欲しいんだけど」
「しせんとうがらし?」
ウィルコの言葉に陳さんが首を傾げる。
「以前南で仕入れた乾燥唐辛子があるから持ってくるよ」
ウィルコが馬車から乾燥唐辛子の入った容器を持ってきて見せる。
「これは刺激が強い毒よ。触ったり食べたりしても死にはしないけどピリピリして痛いのよ」
「僕らは料理に使っているんだよ」
「なんですって!?」
陳さんが青ざめてしまった。
「一度に使う量は少しだよ。他の香辛料とブレンドして肉を漬けて焼いても美味しいし、炒め物に使っても美味しいよ」
「料理以外にも使えるわよ。米びつに入れておけば防虫効果があるし」
「ネズミやゴキブリなどの忌避剤にも使えるぞ」
さっそくデモ販売で使ってみせることになった。ルイスが広場で火を起こしてウィルコと私がお米を炊く。モニカは材料を揃えた。
「じゃあ作っていくぞ」
今日のデモはルイスが担当だ。
賽の目に切った豆腐1丁を茹でていったん取り出す。これは煮崩れを防ぐ目的だ。
鍋で油を熱して豆板醤を炒めて香りが出たら挽肉を入れて炒める。
挽肉に火が通ったら豆豉、みじん切りのニンニク、みじん切りの生姜、オイスターソース、四川産唐辛子の粉末、醤油、酒、胡椒、砂糖を加えて全体を炒めたら鶏がらスープを注ぐ。
長ネギのみじん切りと豆腐を加えたら煮込んで全体が馴染んだら水溶き片栗粉を加えてとろみを付ける。
「ラー油と花椒を加えて混ぜたら麻婆豆腐の出来上がりだ」
「ご飯も炊けたよ」
ウィルコが試食用のお椀にご飯をよそってルイスに渡す。
「ナイスだウィルコ!」
ルイスがお椀に麻婆豆腐をよそうと麻婆豆腐丼の完成だ。
「お腹が空く匂い…」
「でも毒入りよ…」
「でもたまらないな…」
唐辛子を毒だと認識してきた村人にはハードルが高そうだ。
「ねえ私も食べたい」
「カレン?」
「毒じゃないから私が食べても大丈夫だよ」
「俺たちも食うか!」
「よそっておくから気が向いたら食べてちょうだい」
ご飯と麻婆豆腐をあるだけ試食用のお椀によそって提供した後で私たちも食べる。
「いただきまーす!」
「美味い!」
「ルイスったら腕を上げたわね」
「今日も美味しいよ」
皆さんの試食用のお椀は小さいが私たちのお椀は通常サイズだ。本気食いしている。
「ごくっ…」
「俺もいただこう」
「私も!」
私たちに釣られて試食に手を出す村人が現れた。
「美味い!」
「本当…辛くて美味しいわ」
夢中になって食べる村人に釣られて様子見だった村人も試食に手を出し、用意した試食はすべて無くなった。
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