第113話 6人の感謝祭

 サンクスギビングとはアメリカとカナダの祭日である。もともとは神に収穫の感謝を捧げる日だったが現代では家族や親戚が集まって食事会をする日。


 アメリカかぶれなウィルコの憧れだが、肉料理を食べる日と聞いてルイスとモニカも賛成したので結界でやることになった。出来るだけこの世界の食材を使おう、アメリカの食材もOKだ。


 もちろんメインはスタッフィングを詰めたロースト・ターキー。

「今日は準備だけね。ターキーを漬け込むブライン液をつくるよ」


塩、黒胡椒、生姜のスライス、ブラウンシュガー、オールスパイス、オレガノ、バジル、タイム、レモンの皮、ローリエ、アップルサイダーを混ぜたブライン液にターキーを一晩漬け込む。


「続きは明日ね、おやすみウィルコ」

「おやすみカレン」



 翌朝、ウィルコに起こされた…早いよ。5時起きっておじいちゃんか。



「パンプキンパイから始めようか」

 ターキーとかロースト料理は食べる直前に焼きたいよね。アイテムボックスに入れておけば大丈夫か。


「パイ生地は市販のパフ・ペイストリーを使おう」


 生地を延ばしてパイ皿に敷いたらフチに沿ってカット。余った生地で葉っぱの形を作った。

 材料のパンプキンピューレはアメリカの缶詰。ブラウンシュガー、ジンジャーパウダー、シナモンパウダー、ナツメグパウダー、卵、エバミルク、オレンジジュースをスタンドミキサーでガーッと混ぜた。

 混ぜたものを生地に流し込んで葉っぱの形に成形した生地を乗せる。

「これは熱々じゃなくても美味しいから焼いちゃおう、40分くらいね」

 甘くないエバミルクを使うレシピで良かった、練乳だったらゾッとするほど甘くなるだろうな。これは私も美味しく食べられるよ。


「コーンブレッドは、この前と同じレシピで焼こうね」 

 コーンブレッドをウィルコに任せてオレンジ色のサツマイモの皮をむく。大きめの輪切りにしてキャセロールに並べたら、全体にバターを乗せてコーンシロップを振りかけて焼くだけ。

 焼き立てをアイテムボックスに入れておけばいいから焼いちゃおう。焼き上がりの目安はキャセロールの端がカラメル状になるまで。


「カレン、コーンブレッドも焼けたよ」

じゃあそれもアイテムボックスにしまっておこう。


「次はターキーにかけるクランベリーソースを作ろうよ」

 インターネット通販でアメリカのフレッシュなクランベリーを買ったよ。リンゴと洋ナシも入れちゃおうドライフルーツも少しだけ。リンゴと洋ナシはクランベリーのサイズに、ドライフルーツは干し葡萄のサイズに揃えてカットした。

 これらにオレンジジュースとグラニュー糖、塩少々とシナモンパウダーとナツメグパウダーを加えて煮る。


 特別な料理ってこのくらいかな?あとはマッシュポテトとかインゲン豆のソテーとか、よく食べているものばかりだ。ホワイトソース好きなルイスのためにクリームドスピナッチも作った。


「じゃあターキーを焼こうか」

「やった!昨日は楽しみで眠れなかったよ」


超早起きしたくせに…それじゃほとんど徹夜じゃない。

「まずはターキーに詰めるスタッフィングを準備しよう」


 ターキーに詰めるスタッフィングはバケットをサイコロ大に切って松の実やクルミとかナッツ類と一緒にオーブンでカリカリにしたもの、セロリとパセリと玉ねぎのみじん切り、擦り下ろしたニンニクを混ぜたらターキーのお腹に詰める。

 塩胡椒したターキーをオーブンで焼いたら完成!


ここでルイス狼とモニカ狼が寄ってきた。パイには見向きもしなかったのに。


「天板に流れ出た肉汁と焦げ付きでソースを作るよ」

 お湯で焦げ付きを溶かして濾したら、フライパンにバターと小麦粉を入れてよく炒める。ここに濾した出汁を少しずつ加えて、塩胡椒で味を調えて出来上がり。


「じゃあ感謝祭のご飯にしようか」


感謝祭なのでシモンさんとテラ様もご招待してある。



「ウィルコ、ターキーを取り分けて」

「僕がやってもいいの?嬉しいなあ」

 アメリカ映画の登場人物になったような喜びようだ。特大のターキーなので、食いしん坊が多いけど充分そう。上手に取り分けてくれて行き渡った。


「みんな今日はありがとう。みんなのおかげで世界が劇的に変わったよ。人間たちもお腹いっぱいご飯を食べられるようになって本当によかった」

「私も元々は自分の利益のためだったけど、世界が変わっていくのは嬉しいよ」

ルイスとモニカも肯いている。

「今日はたくさん食べようね!」

本当は今日だな…



 みんな好きなサイドディッシュを自分のお皿に取る。予想通りルイスはクリームドスピナッチから取った。


「このソース、肉に合うわね」

ターキーをクランベリーソースで食べたモニカが驚きの声をあげた。

「お肉とフルーツの組み合わせ、気に入った?」

「気に入ったわ。美味しい組み合わせね」

「じゃあモニカはスウェーデン・ミートボールも好きそうだね」

IKEAのミートボールは美味しかったな。


「それはどういうものなの?」

「スウェーデン料理といえばミートボールなんだって。リンゴンベリージャムとクリームソースを添えてポテトと一緒に食べるんだよ」

「カレン?」

「ちょっと待ってね」

圧力に負けて取り寄せた。すぐに食べたそうだったのでスウェーデンから出前した。


「これも美味しいわね!」

モニカがご機嫌だ。

「美味いな!」

クリームソースとお肉の組み合わせなのでルイスも気に入ったみたい。


「カレンが肉汁で作ったソースも美味しいよ、マッシュポテトにも合うね。ターキーも美味しく焼けているね」

「早起きした甲斐があったよ」

ウィルコは別にあそこまで早く起きなくても良かったのに…。


「一年で随分な成果ですね」

「シモンさんもそう思う?」

「ええ劇的に変わりましたよ」

シモンさんの感想にテラ様もニコニコ顔で肯いている。



お互いを労う感謝祭らしい1日になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る