第38話 ダニエレとイラリーの宿

 宿が決まったので、さっそくみんなで馬の世話をした。ダニエレとステファンも手伝ってくれた。


「丁寧に世話されているんだなあ、二頭とも艶々で健康だな」

 ステファンもダニエレも馬に優しい、好感度がさらにアップだよ。


 馬の世話を終えてからステファンが帰って行った。

 まだ少し早いけど今日の夕飯はどうするのかなと思ったらモニカが動いた。モニカったら一食でもヘルシーなご飯が嫌なんだなって思った。

「さっそく今日の夕飯から始める?」

「ほかに他所から来た旅人はどのくらいいるんだ?」


「今日はモニカさんたち4人を含めて12人が宿泊です。皆さんを含めて6人が夕食をうちで取る予定です」

「ダニエレとイラリーと俺たち4人と他の客が2人、全部で8人前か」

「ルイスとモニカは1人前じゃ足りないじゃん」

…モニカに睨まれた。思わずルイスの足にしがみつく。


「何が良いかしら?」

「この街の食材を見るには市場に行くのが一番だが、もう終わる時間だな」

どこの街でも市場は朝が早くて閉まるのも早い。

「じゃあ今日は豚カツにしたら?パン粉と卵はあるよね?揚げたてを塩とレモンで食べたら美味しいよ!」

「いいな!豚肉の在庫はあるぞ」

「豚カツは美味しいものね!」


 みんなでキッチンに移動するとルイスがでっかい豚ロース肉を持ってきた。


「厚切りにするぞ」

 そう言ってルイスが豚肉をスライスする。8人前どころじゃない量のスライスだが黙っておく。またモニカに睨まれちゃう。


「厚切りにしたら筋に切り込みを入れる。熱を入れると筋が縮まって肉全体がうねって均一に火が通らなくなる。薄切りなら構わないが厚切りの時は丁寧に筋切りをするんだ。特に豚肉は生はダメだ。こうやって筋のある場所に包丁の先を刺して筋を断つ。赤身と脂肪が込み入っている部分は筋が多いと覚えておけ」

 ルイスの真似をして筋切りをするダニエレさんとイラリーさん。普段から料理している感じ。


「叩いて肉を柔らかくするぞ、コップの底でいい」

ルイスがダン!ダン!とコップの底で肉を叩く。

「薄くなった肉を寄せて厚く戻す」

 ダニエレさんとイラリーさんの表情が複雑に変化する。疑問と素直の間を行ったり来たりしているが、本当に料理番組でこれをやっている料理人がいたんだよね。


「肉に塩を振る。次に小麦粉をまぶしたら余分な粉を落とす」


 モニカがバットを2つ並べる。左のバットにとき卵、右のバットにパンを手で粉砕しながらパン粉をいれる。

 無茶苦茶に見えるけど硬くなった食パンを崩してパン粉にしてフライを作ると本当に美味しいので是非とも試して欲しい。この世界に食パンはないからモニカはカンパーニュを粉砕してるけど。


「左手で卵液に肉を両面浸したら、そのままパン粉の上にのせる。右手でパン粉を全体にまぶす」

 ダニエレさんとイラリーさんが真似して全部の豚肉に衣がついた。


「じゃあ揚げていくぞ。

 油が温まってパン粉を入れた時に泡立ってパン粉が散る状態が肉を入れる目安だ。表面が固まるまで20~30秒間はそのまま触るな」

じっと待つルイスとモニカとダニエレさんとイラリーさん。


「パン粉がカリッとして肉が油の中で泳ぐようになってきたらひっくり返す。そのまま4~5分だな。揚げ色がついて泡が少なくなってきたら揚げ上がりだ」


 ウィルコが用意したバットの上に網を敷いたものの上に揚がった豚カツを乗せてゆく。キツネ色で美味しそうだ。


「食べやすい大きさに切って器に盛る。気持ちばかりの葉っぱや、彩り程度のトマトが有れば乗せても良い。豚カツを引き立てる名脇役だな」

「そうね豚カツは美味しいけど見た目が地味なのは残念ね」

 以前、山盛りの千切りキャベツと一緒に出したのが気に入らなかったらしい。引き立てあって美味しいんだよ!気持ちばかりの葉っぱってなんだよ!


 ルイスとモニカが野菜をディスっている間に夕飯の時間だ。元々予定していた宿のメニューにプラス豚カツというメニューになった。


 ダニエレさんとイラリーさんが給仕してくれた。私のお皿には炭火で焼いた焼き魚にレモン、素揚げした小海老とサラダ。スープは潮汁みたいなスープ、日本人には嬉しいね。絶対美味しいやつだよ!


 ちらりと横を見るとルイスとモニカのお皿にでっかい豚カツが4枚ずつ乗ってた。

うわあ4枚…と思って、つい見てしまった。


「なんだ、やっぱり肉を食べたいんじゃないか」

「カレンったら、しょうがないわね」

 ルイスとモニカが自分のお皿から豚カツの真ん中の美味しいところを一切れずつ私のお皿に乗せてくれた。


 食べたくて見てた訳じゃないんだけどな。でもせっかくだから分けてもらった豚カツを頂こうかな。ちょいちょいっと塩をつけて…


サクって音がした!

「…ルイスとモニカの豚カツ美味しい!丁寧に作ってたよね!すっごく美味しい」

「たくさん食えよ」

「私はそんなに量を食べられないよ」

「早く大きくなれ」

「無茶言わないでよ!」


 豚カツは本当に美味しかった。

 あのルイスとモニカが美味しい部分の肉を迷わずくれるなんて…驚いたよ。嬉しいね。

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