第237話 モニちゃんは過去に学ばない

「モニちゃんが起きた時のために食事の用意をしておいた方が良さそうですね」


「ルイスの時と同じメニューを用意しようか」

「そうだね」


「待ってくださいウィルコ、カレンさん」

「どうしたのシモン」


「モニちゃんは肉を食べたがります。ダメと言っても聞きません」

「そうね…」

 シモンさんとテラさんが下を向いてため息を吐いた。


「じゃあ鳥粥にササミを入れてあげようか」

「そうだね」

「インターネット通販で経口補水液とゼリー飲料とフルーツの缶詰も買ったよ」

「いいね!」


 インフルエンザで身体が弱っている時は胃腸も弱っているので無理して食べると気分が悪くなったり吐いたりする。ルイスもそうだったのでウィルコとカレンは常識的な準備をした。



「モニちゃんが起きましたよ。モニちゃん、気分はどうですか?」

「ふんふん…鶏肉の匂いがするわ」

「ウィルコとカレンちゃんが鶏肉入りの鳥粥を作ってくれたのよ」

「食べる」


モニちゃんが人化した。


「すっごく可愛い〜」

 狼耳と尻尾付きの幼女なモニカは超可愛かった。シモンさんもテラ様もウィルコも私もデレ顔になってしまう。これはシモンさんが親バカになって甘やかしてしまうのも分かるわ。



「モニカのための特別メニューだよ、じっくり出汁を取ったから栄養つけて」

「ありがとうウィルコ」


 モニちゃんが食べた。


「美味しいわ、鶏肉の味が濃いのね」

「気に入ってもらえてよかった。だし巻き卵も食べてね」

「ありがとうカレン」


 モニカは3回おかわりした。

「もっと食べる?」

「もういいわ、ごちそうさま」


ルイス狼の目にじゅわぁ〜と涙が浮かんだ。


「いつもなら鍋いっぱい食える姉ちゃんが鍋2/3で腹いっぱいだなんて…」

「大丈夫よ、すぐに元気になるわ」

 幼女なモニちゃんが巨大な狼のルイスを撫でて慰める。



「姉ちゃんは寝てくれ。休めば良くなるんだろう?」

「まだ眠くないわ」


「じゃあ、お薬を飲んでみようか」

「寝るわ」


 モニちゃんが手のひらを返した。


 引き止められる前にモニちゃんはさっさと自分の部屋に戻った。心配したルイス狼がついていったが、すぐに戻ってきた。

 メソメソするルイス狼を1人で大丈夫だからルイスもご飯を食べてきなさいと宥めたらしい。



「ルイスも戻ってきたから僕らもご飯にしようか」


 今日はモニカの特別メニューの余った材料でチキンの照り焼きだ。


「皮目をパリッと焼いて醤油ベースの甘めのたれを絡めてご飯が止まらないやつだよ」

「今日は温泉卵も乗せたから。お肉と絡めると美味しいよ」


「美味い!」

ルイスの尻尾が上を向いた。

「これは美味しいですね」

「カレンちゃん、私ご飯をおかわりしようかしら」



「モニも照り焼き食べる!」


 5人の箸が止まった。


 振り返ると幼女なモニちゃんが仁王立ちだった。


「モニちゃんは特別メニューを食べたでしょう?」

「照り焼きも食べる!」

「普通の食事は胃腸に負担をかけるから控えましょうね」

「照り焼き食べる!」


 シモンさんとテラ様のどんな説得もモニちゃんの狼耳には届かなかった。


「ウィルコ、カレンちゃん、用意してあげて」

 疲れてやつれたテラ様が根負けした。


「でも…」

「心配…」

「いいのよ、モニカは身体で覚えるタイプなんだから」

 テラ様の言いたいことは伝わったのでモニちゃんの照り焼きチキンを用意した。


「いただきまーす」

 照り焼きチキンを元気よく食べ始めたモニちゃんだったが5口目くらいで顔色が変わり、次の一口で小狼に戻った。


「おええええ」

 モニちゃんが吐いた。みんなの予想通り吐いた。


 予想通りだったので、みんなで手早く処置して片付けて、大人しくなったモニちゃんを横に寝かせてから、ゆっくり落ち着いてご飯を食べた。

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