第134話 ウィルコ神のお考え

 ソニアさん一家が行政都市デンハフの公邸に到着した。


「立派な家ね」

 公邸はソニアさん一家が暮らしてきた家よりも遥かに大きい。


「公邸ですから」

「警備などの都合で必要なんですよ」

「不自由に感じるかもしれませんが、ご一家のプライベートエリアは確保されていますので」

 ソニアさん一家を迎えた官僚たちがソニアさんのつぶやきに答える。


「任期終了後は元の家に戻れるんだし、こんなに立派な家で不満がある訳じゃ無いのよ」

 素朴で質素な生活が身についているソニアなので、新しい生活に慣れるのは大変そうだ。


「僕らは母さんの任期中に成人するから早めに出て行くことになりそうだけど…」

「母さんが帰る時は一緒に帰ろうかな」


 シングルマザーとして働きながら反政府組織で指揮をとるソニアの多忙な毎日を支えてきた息子たちは母親の将来に不安を感じている。

 2人ともうまく言葉にできないが、働き詰めだった母が任期を終えた時に抜け殻になる可能性に怯えているのだ。


「あんた達はインターンシップが始まるんだから、いい職場があったらそのまま就職を目指しなさいよ」


 新しい都市の実務スタートと同時にインターンシップ制度が始まる。まずは公務員の間で開始して、インターン受け入れマニュアルの整備や助成金などの制度を整えた後、民間でもインターン制度をスタートさせる。


「インターンはいろんな職業で体験したいけど、その経験は村でも活かせると思うし」

息子たちは故郷で働く気持ちが強いようだ。



 ソニアさん一家を案内している公務員が話題を変える。

「最近の王都では地方都市の物産が人気なんですよ」

「北部のチーズなどの食材も流通しているのでご不便を感じることは少ないのではないでしょうか」


「そういえばウィルコ神の御神託で“ホットドッグ”という軽食を食べさせる店や屋台が次々と開店しているんですよ」

「柔らかいパンに腸詰めを挟んだものなんですが、シンプルなものから具沢山なものまで店ごとに種類が豊富で飽きないんですよ」


「このデンハフの名物にするようにとウィルコ神から有り難い御神託がありましたので、是非とも足を運んでみてください」



「わざわざウィルコ神の御神託が…この都市の発展や住む人々の為に深いお考えがあるのでしょうね…」



 ウィルコ神に深いお考えなどない。

ただのアメリカかぶれの憧れからの思いつきだった。

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