第253話 ハウス・ハズバンド

 ルイスとモニカとヨルに見守られ、カレンは3歳になった。


「おはようモニカ」

元気よくモニカに向かって走ってきたカレンがモニカに抱きつく。


「モニカ大好きー」

 モニカに抱きついて大好きまでがカレンの毎朝のルーティンだ。



 カレンはヨルとルイスにも大好きの挨拶をした。カレンがお喋り出来るようになって初めて『モニカ大好き』と言って抱きついた日の夜、夢の中でモニカが泣いた。


 別れの時、カレンの最後の言葉が『モニカ大好き』だった。

それは嬉しい言葉だが、モニカにとって別れを思い出す辛い言葉でもあった。生まれ変わって前世の記憶のないカレンの口から飛び出した『モニカ大好き』は泣くほど嬉しい言葉だった。


 ルイスが促して『モニカ大好き』は毎日の習慣になった。1日に何度も大好きと言って抱きつくカレンは子犬のようだった。




その夜も夢の中でルイスとモニカとヨルが集まってお喋りしていた。


「ルイスはしばらく仕事が続くのか?」

「どうしてルイスはカントリー歌手なの?」

「シングル・ファーザーとして子育てのために出来るだけ休める立場を検討した結果、ジョン・レノンを参考にした」


 ジョン・レノンが約5年間、ハウス・ハズバンド(主夫)として育児と家事に専念したことは有名だが、参考にするにしても相手がビッグネーム過ぎる。もしも前世のカレンが聞いたら、いくらなんでもルイスとジョン・レノンは比べられないと呆れるだろう。


「そうだな、アメリカのミュージシャンはアルバム制作に数年かけて、ツアーも長期に渡る。数年の充電期間を持つ者も多いから不自然ではないな!」

「そうね、ルイスがカレンに付きっ切りで過ごせて良かったわね」


「そんな感じの職業から俺の徳で選べたのがアメリカ人のカントリー・ミュージック・アーティストでありシンガーソングライターだった」

「ちょうど良さそうなのを選べて良かったわね」


 ルイスはカレンとモニカ、ヨルを連れてスタジオに通ってアルバムを作り上げ、ラジオ番組の出演など単発の仕事を入れていたが、ライブ活動をやらないわけにはいかない。翌週からこじんまりとしたツアーに出ることが決まっている。もちろんカレンもモニカもヨルも一緒だ。


「セスナで移動する。ライセンスを持っているから俺が操縦する。俺たち4人だから自由に行動できるぞ」

「それは嬉しいな」

「人目があると、犬っぽく振舞わないといけないから気を遣うのよね」

普段から文句なしに犬っぽいモニカが、ちょっと偉そうだった。



翌週、ルイスが操縦するセスナが墜落するとは、誰も想像していなかった。

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