第178話 メープルトフィ
イルカイト村周辺のレッドメープルの林にやってきた。
「若木ではなく樹齢30〜40年くらいで幹の太さが直径20cm以上の樹木に採取口をつけるんだ。樹木を守るために太さが20㎝以上のルールは守ってね!」
ウィルコが張りきって採取口にバケツを取り付ける。
「採取口からバケツに溜まるのがメープルウォーター。糖度は約3%、この段階では透明でさらさらとして水みたいな状態。この辺りのレッドメープルからどんどん採取していくよ!」
ウィルコが次々とバケツを設置してゆく。
目に見える範囲のレッドメープルすべてにバケツを設置して最初のレッドメープルに戻ってくると、そこそこ溜まっていた。
「お試しだから、このメープルウォーターを煮詰めてシロップにするよ」
デモンストレーションで使った竈門に戻り、メープルウォーターを煮詰めてゆくと、だんだん濃い色に変わってきた。
「シロップになってきたのが分かる?」
村人たちは信じ切れていないようだ。
「カレン、滑らかで清潔な小枝を持ってきて」
ウィルコに頼まれた通りの小枝を5~6本集めたが表面の滑らかさが足りない…。
「貸してみろ」
ルイスが表面をむいて滑らかにしてくれた。
「ありがとう、じゃあ見ててね」
雪が高く積もったところに鍋で煮詰めたメープルシロップを一文字に垂らして小枝でくるくる巻き取る。
「メープルトフィだよ」
「ありがとウィルコ、いただきまーす」
あむ!っと食らいつくとメープルシロップのコクのある甘さが広がる。
「甘ーい!美味しーい!ところどころに含まれるシャリシャリの雪が甘さを引き立てるね!」
村人たちがざわつく。
「さあ、村長さんもどうぞ」
ウィルコに勧められるまま小枝で巻き取ったメープルシロップを食べる村長さんの顔が驚きに包まれる。
「甘い…」
村人たちのざわめきがさらに広がる。
「皆さんもどうぞ」
ウィルコが鍋にあるだけ振る舞い終えるころにはウィルコの話を疑う者はいなかった。
「40ℓのメープルウォーターから1ℓのメープルシロップが出来るよ」
「かなり嵩が減ってしまうんだな」
「それでも、この甘さは貴重だぞ」
「甘い樹液が取れるのはシュガーメープル、ブラックメープル、レッドメープル、シルバーメープルの4種類だけ。この辺りはレッドメープルの生育に適しているようだから無理なく増やしていくと良いんじゃないかな」
「こっちも煮詰まってきたぞ」
ウィルコの横でルイスとモニカもメープルウォーターを煮詰めてくれていた。
「メープルシロップをさらに煮詰めて撹拌するとバター状のメープルスプレッドに、もっと煮詰めて水分を飛ばすと、メープルシュガーになるんだ」
「俺が煮ている鍋の分はメープルスプレッドにしよう」
「じゃあ私のお鍋はメープルシュガーね」
先ほどとは比べ物にならない村人たちの熱の入った視線に見守られながらメープルスプレッドとメープルシュガーが出来た。
「バケツがいっぱいになったら溢れてもったいないから交代で見張ると良いわ」
「煮詰めるだけだから簡単にできるよ」
「村で消費する分を上回るくらい出来たら買い取るぞ」
早めの春がやってきたように、イルカイト村が明るい空気に包まれた。
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