第177話 イルカイト村

 昨日のシャルキュトリ三昧の夕食を経て今日は北東部へ向かっている。ウィルコが生やした野生のメープルを巡るのだ。


「今日は北東部のイルカイト村へ行くんだっけ?」

「そう北東部でも比較的貧しい地域なんだ。メープルシロップで格差を解消出来るといいんだけど」


 シュガーメープル、レッドメープル、ブラックメープル…これらの樹液を煮詰めて凝縮させたものがメープルシロップ、さらに煮詰めたらメープルシュガーやメープルスプレッドになる。

 今日向かっているイルカイト村周辺はウィルコがレッドメープルが大量に生やしたらしい。


「村の入り口っぽいものが見えてきたよ」

「イルカイト村の入り口だよ!」

ウィルコのテンションが高すぎる。


「こんにちは!僕らは行商にきたんだ、入れてくれるかい?」

「あ、ああ」

「春の行商の一番手だな」

門番さんたちが押されている。


「うちの村はあんまり豊かじゃないから、そんなに買えないと思うけどいろいろ見せてもらえると嬉しいよ」

「ああ、冬の間は侘しかったからなあ」

売り上げを期待しないよう門番さんたちが予防線をはってくる。


 門番さんたちの紹介で村長さんに許可を得て広場で商品を広げると、冬の間ずっと家に閉じこもり楽しみも少なかった村人たちがぞろぞろと集まってくれた。

 娯楽に飢えていたのかデモンストレーションはとても喜ばれて試食も好評だったが商品はあまり売れなかった。グラノーラ・バーの試食は特に人気だった。


「わざわざ来てくれたのにすまないな」

「ウィルコ神の改革で楽になったけど、まだまだ余裕がなくてな」

「また来てくれたら嬉しいよ」

「甘いものを買えるようになるといいんだけど」


「ええー!この村はシロップが取れるでしょう?」

ウィルコの演技はちょっと大げさだ。


「はて?どこか別の村と間違っているのでは?

「ああ、そんなものが取れたら村中大騒ぎだ」


「だってこの村に来る途中にたくさんレッドメープルを見かけたよ?」

「ああ、あれはただの木だ」

「家具や床材にぴったりだが食べられないぞ」

村人たちが力なく笑う。


「木そのものじゃなくて樹液だよ!」

ウィルコの熱意に反して村人たちは冷静だ。

まったく話がかみ合わない。



「ウィルコは孤児だったんだけど、この子の生まれた村では何種類かのカエデからシロップを作っていたそうよ」

「もう廃村になっているし、俺たちも詳しい事情を大人から聞いたわけじゃないから確かなことは言えないが試してみないか?」



暇を持て余していた村人たちの了承を取り付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る