第231話 コリアンダー

「こんなに美味しいものは初めてです」

「厚かましく食べすぎてしまって…」


「勧めたのは私たちよ」

「美味しいって食べてくれるのは嬉しいよ」

 後片付けを終えてお茶を飲みながら話を聞くことになったがマヘンドラさんとシカールさんが恥ずかしそうだ。


「俺たちは西の王国だったところから来た。国の体制が変わって豊かになってきたから、新しい商品を探しながら旅をしているんだ」


「今日のチキンカレーはこの辺りで仕入れたスパイスを合わせて作ってみたんだけど大成功だったね」


 偶然の産物をよそおっているが偶然出来た料理にカレーって名前があるのはおかしいよ!…と思ったけどマヘンドラさんもシカールさんも気付いていないから私もスルーしよう。


「この辺りのスパイスですか?」


「これはシャルワル村のカルダモン、トリワル村のターメリック、キリワル村のクミン」

ウィルコが小皿にスパイスを乗せて見せる。


「その他の土地で手に入れて今日のチキンカレーに使ったスパイスはこれ」

 赤唐辛子、コリアンダー、シナモン、クローブ、ナツメグ、ベイリーフ、胡椒を見せる。


「赤唐辛子、シナモン、クローブ、ナツメグ、ベイリーフ、胡椒は、あちこちで見つけて仕入れたんだけどコリアンダーだけはまだ産地を見つけていないんだ」

「このコリアンダーは野営地で出会った商人から仕入れたのよ」

「この辺りが産地だと聞いたんだがな」


「今日のチキンカレーに使ったのは種子だけど葉っぱはこれ」

 ウィルコがパクチーの葉っぱを見せる。


 いつ入手したかも分からない葉っぱがシャキシャキでおかしいよ!…でもマヘンドラさんもシカールさんもスルーだ。これはウィルコが何かしているに違いない。


「触ってもいいか?」

「どうぞ」

 2人がパクチーの葉っぱの匂いを嗅ぐ。

…私、パクチー嫌いなんだよね…メキシコや東南アジアの料理は好きだけどパクチーは断る派だ。


「これは俺の村の雑草だ」

シカールさんが嫌そうに答える。

「これが好きで好んで食うやつもいるがおかしいと思う。匂いが強すぎるだろう」

「虫っぽいよな」

私もそう思うよ!


 シカールさんたちによると村でも雑草派と野菜派に別れるらしい。私は雑草派だな。


「俺たちが欲しいのは種子なんだ」

ルイスがコリアンダーシードの小皿を渡すとマヘンドラさんが種子を確かめる。

「うちの村の雑草で間違い無い」


「ここから南へ3日ほど行ったところにあるビドワル村というところだ」

「俺たちはこれから北へ塩を売りに行くところなんだ。帰りだったら案内出来るんだが…急ぎじゃなければ落ち合って同行出来るぞ」

「待て待て、紹介状を書いた方が良く無いか」

 マヘンドラさんとシカールさんが紹介方法で議論を始めた。


「南へ3日…」

「暑そうね…」

 ルイスとモニカが遠い目をしてつぶやいた。


「ああ一年中暑いぞ」


 ルイスとモニカが絶望感を醸し出す。

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