第13話 旅に出よう
馬車に馬を二頭つないで出発の準備が出来た。
「カレンちゃん、気を付けてね」
「お見送りありがとう」
エレナさんたち、ご近所の皆さんが見送りに出てきてくれた。
「仕入れの旅から帰ったら会いにいくね!」
「ああ楽しみにしているよ」
ご近所の皆さんに馬車から手を振る。
「みんな良い人たちだね」
「そうねえ」
「まずは南に向かうんだったな」
「うん、まだ寒いからね。暖かくなったら北に移動しよう」
ウィルコの世界には大きな大陸が1つドカンとある。ユーラシア大陸っぽい大陸の西側半分に大陸最大の王国があった。過去系なのは私たちの手で再編中だからだ。都市計画が進んだら教会を通じて選挙制度を広めて、民主主義に移行させる。
この元王国以外の地域は、ほぼ未開拓だ。王族や貴族から逃れた人々が済む場所がちらほらあるが、元王国ほど大きな勢力ではない。そのうち交易相手として交流を始めることになると思うが先の話だ。まずは元王国をなんとかしないとね!
馬を休ませながら整備されていない街道を進み、夕暮れ前に野営地を決めた。
「良い場所があって良かったね」
川の水で手や顔を洗ってみると冷たくて気持ち良い。みんなで馬たちの世話をする。馬たちも伸び伸びと楽しそうだ。お気に入りの草をあげるとモリモリ食べた。
馬の世話の後はみんなで枝を拾って火を起こして料理を始める。もちろん楽しいキャンプ飯だ。
── 私たちの場合、馬車の中で休むふりをして転移で結界に帰れる。トイレもお風呂も結界で済ませているので旅の苦労といったものとは無縁なのだ。キャンプ大好き、楽しいよう!
「夜は少し冷えるから温かい煮込み料理が食べたいわね」
「じゃあ鶏肉のトマト煮込みとホットドッグにしようか」
「それはいいな、鶏肉は多めに入れよう」
「じゃあ僕は野菜を洗ってくるよ」
ウィルコが率先して動き出す。すでに野菜の下拵えは完璧だ。神様だけあって、もともとスペックが高いので、やる気になれば身に着けるのは早い。この旅の間に料理の腕も格段にアップするだろう。
ウィルコが手際よくジャガイモの皮をむいてカットする。続いて玉ねぎ、ニンジン、トマトもカットする。その間に私は粉を計ってパン生地を捏ねる…捏ねる作業はルイスに代わってもらった。子供の体が憎い…。
焚火の上のダッチオーブンに油をひいてウィルコがカットしたジャガイモとニンジンと玉ねぎと肉をモニカが炒める。
子供の体では焚火の上のお鍋に届かないのですよ…私は役立たずの子供なのです。
野菜に油が回ったらトマトも入れて、先日のコンソメスープをひたひたに入れて蓋をして放置。具材が柔らかくなったらトロッとするまで煮詰めてから味を調えて完成だ。
お茶を飲みながら焚火を囲んでパンが焼けるのを待っていると、私たちが来たのと反対方向から荷馬車がやってきた。荷馬車を引いていた御者とお互いに軽く会釈をすると、少し離れた場所に馬車を止めて馬の世話を始めた。
彼らが火を起こして簡単な食事を始めたころにパンが焼けた。彼らの食事は一欠片の干し肉と水だけ…食事と呼べないような食事だ。
ウィルコがパンに切り込みを入れ、ルイスが腸詰を焼き、モニカが鶏肉のトマト煮込みの仕上げをする。私はみんなの周りをウロチョロした。だって子供の体だから人目があるところでは何もさせてもらえないんだもん!
鶏肉のトマト煮込みの湯気が広がり、腸詰の焼ける匂いが周囲に漂う。
配膳をモニカとウィルコに任せ、私がルイスの手をグイグイ引っ張る形で隣の旅人の馬車に近づく。ルイスだけだと警戒されてしまうので子供の私が無邪気を装うのがポイントです。
「こんばんは!」
「こ、こんばんは」
痩せて疲れた様子のおじさんと息子の二人旅のようだ。息子は私より小さい、まだ3歳くらいかな。
「私たちこれから食事なんです、よかったら一緒にいかがですか?」
「し、しかし…」
父親は遠慮しているが息子は私たちの焚火に目が釘付けだ。
「我々とは逆の方向から来られたようですし、よければ南の地方の話を聞かせてもらいたいのです。食事をお裾分けするのは情報のお礼です」
「…そういうことでしたら、ありがたく」
温かい煮込みとホットドッグに親子が驚いている。
「王都の治安は嘘のように良くなりましてね、やっと仕入れの旅に出られますよ。私はルイス、こちらは一番上の姉の忘れ形見のカレン、こちらは下の姉のモニカ、こちらは私が傭兵だった頃に拾った弟子のウィルコです」
「私はロイと言います、こちらは息子のロブ。南のラバトという村で農業をやっていたんですが、不作が続いてもう首をくくるしかないかという状況で最後の望みで王都を目指しています」
「そうなんだ! 王都についたら教会に行くといいよ、困っている人を助けてくれるから」
「ここまで来れば大丈夫ですよ、カレンの言う通り王都で首をくくるほど追いつめられることはないので安心して、まずは食事をどうぞ」
無邪気を装った私のセリフを上書きするようにモニカが促すと、やっと食べ始めた。
「美味しい!」
息子のロブが柔らかい鶏肉の煮込みを気に入ったようだ。
「たくさん食べてね!」
引き続き無邪気を装う私、ちょっと辛い。中身は40代なので。
作った料理はきれいに無くなった。
「とても美味しかったです…夢中でいただいてしまいましたが高級な料理だったのではないでしょうか…」
父親の顔色が悪いが、そんな心配は無用だ。
「普通の材料だよ、みんな料理が上手なの!」
「きちんと出汁をとるだけで旨味はアップしますよ」
「出汁とは何でしょう?」
そう、この世界は出汁をとる文化がないのだ。出汁をとらず、灰汁をすくわず、塩だけで味付けする…美味しくなるわけがない。
「野菜やお魚や肉をこそげた後の骨を煮込むと美味しいスープの素になるんです。煮込めば骨もご馳走になるんですよ」
モニカが丁寧に出汁の取り方を解説する。
1リットルの水に野菜クズを100gから200gの比率で20分ほど煮込めばベジブロスの完成だ。風味が強くベジブロスに向かないキャベツ、ブロッコリー、カリフラワーなどアブラナ科の野菜は少な目に使うこと。
魚のアラで出汁をとる時は、煮込む前に良く洗う。血やうろこ、内臓の一部などは洗って落とす。洗った後は全体に塩をまぶして少し置くことで余計な水分を出して臭みが取れるので、熱湯をかけて洗い流す。
そこまでしたら煮込みだ。かぶるくらいの水とお酒で火にかける。沸騰したら灰汁をすくう。しっかり出汁が取れたら濾してアラを捨てて完成。
肉の骨から出汁をとる時はコンソメを煮た時のやり方だ。もっと丁寧にすれば、より美味しくなるだろうが毎日の料理でそこまで手をかけられない。
父と息子の2人家族なので普段から自分で料理をするのだろう、熱心に質問し出汁の利用方法などもモニカに聞いていた。
その間、息子はウィルコに抱かれて眠っていた。ウィルコにとってはこの世界の人間は等しく可愛い我が子なんだそうだ。ロイのことまで抱っこしたそうに見てる。なにその父性!?
我が子のために世界の立て直しを頑張ってくれ。私は眠いので馬車に戻るといって拠点に戻ってお風呂に入った。子供なので気ままにいかせてもらいます。
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